第258話


タクシーはノエルの家のある丘の上に着いた。


俺はじーちゃんが車椅子に乗るのを手伝った。


そして丘の上から眼下に広がる街並みを見た。


「澄ちゃんは、毎日この景色を見ていたのか…。」


じーちゃんは遠い目をした。



「どうぞ!」


ノエルは玄関のドアを開けた。


家の中に、薄っすら人の気配が漂っていた。


それは澄子さんが残していった物か、それとも魂がまだそこに存在しているのかはわからなかったが、優しい空気が俺たちを包んでいた。


 ノエルは俺たちを澄子さんの寝室へ招きいれた。


「おばあちゃんは、この台の上にラジオを飾っていたんです。」


ノエルはラジオの置いてあった場所をじーちゃんに教えた。


「毎日それはそれは大事に磨いていたんですよ。」


じーちゃんは、その場所を愛しそうに見つめた。


その時、窓がゆっくり開いて、そよ風が吹いた。


そよ風は優しく俺たちを撫でた。


「おかしいな…。戸締りはちゃんとしてたはずだったけど…。」


ノエルが不思議そうに言った。


「澄ちゃんがいるんだろう…。」


じーちゃんが笑顔で言った。


「そうか…。」


「おばあちゃん、私たちと一緒にいるのね。」


なんだか心が温かくなった。


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