第243話

 次の週末、俺はノエルの家に行った。


例のラジオをじーちゃんに渡す為だ。


ノエルの住む街の駅に着いたのは、まだ朝の早い時間だった。


空気の冷たさが、もうそこまでやってきている冬の気配を感じさせた。


俺はノエルと初めて会った水飲み場へ寄ってみた。


水飲み場は今日も変わらぬ姿で俺を迎えてくれた。


「君と会うのは、今日で三度目だが、私と君の付き合いは、もっとずっと長いものなのだよ。」


水飲み場は俺にそう話しかけた。


「ずっと遠い過去、俺はあなたから水をいただきましたね。その節はありがとうございました。」


俺は水飲み場に語りかけた。


「私は何百万という人々を、ここから見送った。そしてそのほとんどが、再びこの地を踏むことは無かった。もうあんな悲しい別れはしたくないものだ。」


水飲み場は悲しそうに言った。


「俺たちは、もうあんな悲しい未来は作らない。」


俺は水飲み場の蛇口を優しく撫でた。


「そう願うのみだ…。」


水飲み場は悲しそうに俺に向かって微笑んだ。


そんな気がした。

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