第233話


健二は思った。



お国の為だったら、人殺しも正義なのか?


人を傷つけたり殺したりしたら地獄に落ちるって、みんな言ってたんじゃなかったのかよ!



だけど…俺は一人でも多くの敵を殺す!


それがおまえのもとに戻ることが出来る、ただ一つの道なら


俺は鬼でも悪魔にでもなってやる!


殺して、殺して、一人残らず殺しまくって、


生きて由紀子のもとへ帰るんだ!



健二は無我夢中で戦った。


ジャングルの中、敵を追いかけ走り回った。


あまりの緊迫状態からか、健二を呼ぶ由紀子の声が聞こえたような気がした。


健二は一瞬立ち止まった。


その時、銃声が鳴り響き、健二は胸を打ちぬかれて倒れた。



俺はこんなとこで死ぬわけにはいかないんだ!


由紀子が…俺の帰りを待っているんだ!



健二は力を振り絞って立ち上がろうとした。


しかしもうその力は残っていなかった。


健二は胸のポケットに入れていた由紀子の写真を取り出した。



由紀子…ごめんな…。


俺、おまえとの約束を…果たすことができないみたいだ…。



見上げると、満天の星空が見えた。


手を伸ばせば星に手が届きそうだった。


そして健二は、朦朧とする意識の中に由紀子の姿を見た。



健二さん、いつか再び、戦争の無い自由な世界で、またあなたに会いたい。


約束しましょう!


きっとこの四つ葉のクローバーが、私たちを導いてくれるはずだから!



由紀子は笑顔でそう言うと、ゆっくり消えていった。



由紀子、生まれ変わっても必ずおまえを探す!


俺は絶対におまえを見つけ出すから!



熱帯のジャングルの中、たった一人孤独に、健二はその生涯を終えた。


空には悲しいくらいに美しすぎる満天の星空が広がっていた。




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