第231話


 その日の夕方、由紀子は一緒に作業をしていた友達と、仕上げた品物を箱に入れ、一時保管場所になっている教室へ運ぶ作業をしていた。


重い箱を二人で持って階段を上がり終えた時、空襲警報が鳴り出した。


とりあえず保管場所に指示されていた、目の前の教室に箱を置きに行った。


ドアを開けた時、由紀子は窓の外を見て驚いた。


夕焼けのせいなのか、空襲のせいなのか、空が真っ赤に染まっていた。


美しい夕焼けの空ではなく、血に染まったようなどす黒い恐ろしい色だった。


由紀子と友達は手が震えて思わず箱を落としてしまった。


「由紀ちゃん!逃げましょう!」


友達は叫んだ。


しかし由紀子の体は恐怖で凍り付いてしまって動けなかった。


友達は由紀子の手を引っ張った。


「あれ、何かしら…?」


由紀子が指差す前には、見た事も無い巨大な真っ黒の物体が、ゆっくり窓の外を飛んできた。


その時、凄まじい爆発音がして、由紀子のいた校舎は由紀子もろとも吹き飛ばされてしまった。


由紀子が最後に見た爆撃機は、街をことごとく破壊しつくした。


健二が由紀子に一目惚れした由紀子の実家の本屋も、二人で密かに歩いた道も、大事な思い出の場所が燃えた。


二人が出会って恋をした事さえも、燃えつくされてしまったように、全てなくなってしまった。


ただ四番橋とその袂の柳の木だけは、二人の記憶を大事に抱え込むように、悲しく焼け残っていた。

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