第228話


斉藤の身なりから、軍での位が高い事が見て取れた。


斉藤は健二を見てニヤニヤにやけていた。


健二は感じの悪い男だと思ったが、挨拶だけして通り過ぎようとした。


「高橋…だな?」


斉藤に突然名前を呼ばれて振り返った。


「由紀子は俺の許婚だ。」


健二は由紀子に親が決めた許婚がいると聞いていたが、会うのは初めてだった。


「人の女に手を出すなんて、キサマはさぞかし育ちが悪いんだな?」


健二は頭に血が上って、思わず手を出そうとした。


しかしその手は斉藤に掴まれた。


「上官の俺を殴ろうなんて、キサマはバカなのか?」


斉藤は健二の手を汚い物でも触ったかの如く振り払った。


「キサマは二度と由紀子には会えない。南方行きは俺が推薦してやった。お国の為に一生懸命戦ってこいよ!」


斉藤は吐き捨てるように言うと、健二の元を去っていった。


健二は怒りで震えた。


怒りで気が狂いそうだった。

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