第226話
健二の出征の朝、まだ日が明けないうちに、由紀子はこっそり健二のもとを訪ねた。
「これ、持って行って下さい。」
由紀子の手には、千人針と小さな封筒があった。
健二はそれを受け取ると、封筒の中を見てみた。
中には由紀子の写真と、四葉のクローバーの栞が入っていた。
「これを見て私を思い出して下さい。」
健二は胸が熱くなった。
「俺も…由紀子にこれを渡そうと思ってたんだ。」
健二も小さな封筒を由紀子に渡した。
由紀子が中を見てみると、健二の写真と四葉のクローバーが入っていた。
「私たち、同じ事を考えていたのね。」
由紀子は嬉しくなって、目に涙を溜めて笑った。
健二はそんな由紀子を力いっぱい抱きしめ口付けた。
健二の頬に由紀子の涙が伝った。
「必ず戻ってくる! この四つ葉が、俺たちをまた導いてくれる!」
由紀子も健二の背中に手を回し、力いっぱい抱きしめた。
「ご武運を!」
大勢の人々に見送られ、健二は出征していった。
人々の列の中に由紀子もいた。
目に一杯涙を溜めて見送る由紀子を見て、健二はやるせなくなった。
こんなに愛しい女を置いて、何故俺は戦場へ行かなくてはならないのか?
健二は一度だけ振り返り由紀子を見た。
その愛しい姿を目に焼き付けた。
そして振り返ることなく健二は旅立って行った。
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