第225話


「由紀子…、落ち着いて聞いてくれ。今日、赤紙が来た。」


四番橋の柳の木の下で、健二は由紀子にその赤紙を見せた。


「…どうして?どうしてなの? 健二さんは大学の理系に通っているから、兵役は猶予されるんじゃなかったの?」


「俺もそう聞いていたからわざわざ理系に変えたんだけど、状況が変わってきたらしい…。」


「嫌です…。私嫌です! 行ってほしくありません!」


由紀子は目に涙を浮かべて健二に言った。


「こういう時は、おめでとうございますって言わなきゃ。」


健二は投げやりな気持ちで言った。


「絶対嫌です!何故健二さんが行かなくてはいけないの…。」


由紀子は顔に手を当てて泣いた。


健二は由紀子を抱きしめた。


「俺は…必ず戻ってくる。どんなことをしても。どんな手を使っても。たとえ卑怯だと罵られても、必ず由紀子のところに戻ってくる。」


由紀子は目にいっぱい涙を溜めて健二を見た。


「だから、由紀子も体に気をつけて、俺の帰りを待っていてくれ。」


由紀子は小さく頷いた。


そして二人は抱きしめあった。

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