第207話
電話の後なんとなく眠れなくて、おばあちゃんの住んでいた離れに行った。
ドアを開けるとまだそこにはおばあちゃんの気配が漂っていた。
この家におばあちゃんがいない事が不思議に思えた。
おばあちゃんの部屋に入ると、窓から月明かりが差し込んで、あの飴色に輝くラジオを照らしていた。
私はおばあちゃんがいつもしていたように、柔らかい布でラジオを磨いた。
ふと振り向くと、窓辺の椅子におばあちゃんが座って、私に微笑んでいる幻影が見えた。
「まだおばあちゃんのラジオを乃海君のおじいちゃんに渡せてないなぁ…。」
おばあちゃんの幻影は立ち上がって窓の外の月を見上げた。
そして静かに消えていった。
私は何故か焦りを感じた。
出来るだけ早く、このラジオを次の持ち主に渡そう!
そう思いながら途中だったラジオ磨きを始めた。
下の方を磨いている時に、何かが落ちた気がしてラジオを持ち上げてみると、小さな封筒に入った手紙が落ちていた。
おばあちゃんが乃海君のおじいさんに宛てた手紙だ!
私はクローゼットからおばあちゃんの愛用していた小旅行用のバッグを取り出した。
そしてその中に丁寧にラジオを入れた。
サイズはちょうど良かった。
私は安心した。
そしてその手紙を入れてチャックを閉めた。
次、乃海君に会えたら、これを乃海君のおじいさんに渡しに行こう。
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