第156話


「由紀子、どうだ?斉藤さんはこうおっしゃってくれている。式を早めてもいいよな?」


父は斉藤に賛成していた。


「私は………嫌です!」


私はその場を走り去った。


家を飛び出して、気付くと健二さんと初めて待ち合わせた四番橋の所まで来ていた。


冷たい夜風が柳の枝を揺らしていた。


上着も持たずに家を飛び出したので寒くて体が震えたが、家には帰りたくなかった。


柳の木の下にうずくまっていると、後ろから足音がした。


振り向くと斉藤が立っていた。


斉藤は自分の上着を脱いで私の肩にかけた。


「立ちなさい。こんなとこにいると風邪を引くから帰ろう。」


斉藤は私の腕を掴んで連れて行こうとした。


「どうしてですか? 私じゃなくてもあなたなら他にいい人がたくさんいると思います。」


私がそう言うと斉藤は立ち止まった。


「何で君はそうなんだ。」


斉藤は私の肩を思いっきり掴んで怒鳴った。


「私は…斉藤さんと結婚できません。ご存知みたいですからハッキリ言いますけど、

私にはお慕いしている方がいるんです。ごめんなさい。」


私は勇気を振り絞って斉藤に伝えた。


「君は俺と結婚するんだ。」


「どうしてですか? 斉藤さん、私の事好きでもなんでもないですよね? 私じゃなくてもいいじゃないですか? 上司の方からの勧めだから断れなかったのでしょう?」


「違う! 俺は店番していた君を見かけて一目惚れしたんだ。苦労してツテを探してやっとこの縁談に持ち込んだんだ。」



斉藤は最初から私を好きだったという事?

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