第155話
「…何を言っているのですか?」
私は恐る恐る聞いた。
「僕が何も知らないとでも思っているのか? 君が隠れてコソコソ会っているあの男のことは調べさせてもらった。まあ、楽しみにしておくといいよ。」
斉藤の冷たく光る目に私は背筋が凍りついた。
斉藤は私を連れて家の中へ入った。
私の両親に挨拶している姿は好青年そのもので、私と二人の時とのギャップのありすぎる感じの良さに私は恐怖を感じていた。
そして斉藤は突然言い出した。
「由紀子さんとの結婚の話なのですが、彼女が女学校を卒業してからと思っていましたが、戦況も激しさを増す一方ですし、私もいつ外地へ派遣されるかわかりません。なので、できるだけ早く式を挙げさせていただきたいと思っているのですが…。」
斉藤の発言に、私はショックで頭が真っ白になってしまった。
斉藤との婚姻は、私が女学校を卒業してから少しずつ進める予定だと両親から聞かされていた。
私は婚姻とは親が決める物と思っていたので、そのことに異を唱えなかった。
しかし私は健二さんと出会って、初めて恋をした。
将来添い遂げるのは彼しか考えられないと思った。
健二さんにそのことを打ち明けると、許婚との結婚は卒業後の事だし、今二人の関係がわかると引き離されるかもしれないから、それまで事を荒立てないよう黙っていよう、二人の卒業は同時期なので、卒業したら必ず君を迎えにいくから、と言ってくれた。
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