第154話


「君は…なんて軽率なんだ。自分の置かれている立場をわかっているのか?」


男は私に冷たく言った。



安藤先生にしか見えないその男は斉藤勇という名前で、夢の中では私の許婚だった。


陸軍士官学校を卒業したエリートで、今は軍の幹部候補になっているらしい。


彼の上司が父の知り合いで、そのツテで彼との縁談が持ちかけられた。


斉藤は寡黙で、感情もあまり顔に出さないタイプの男だった。


明らかに彼は私に好意を抱いて無いと感じていた。


もしかすると、上司から持ち込まれた縁談だからしょうがなく受け入れたのではないかと思った。


もし他に好きな人がいたのだとしたら、私なんかとの縁談がきて申し訳ないと思った。


その後たびたび会うことがあったが、いつもあまり話すことも無く、冷めた空気が漂っていた。


私のことを気に入らなかったらこの話は無かったことにしてください、という事をさりげなく伝えていたのだが、その話に返答は無かった。


煮え切らない気持ちを抱えたまま過ごしていた時に、私は健二さんと出合った。



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