第152話


その夜、すごくリアルな夢を見た。


夢の中で私は小林由紀子という名前だった。


街の大きな本屋の娘で、セーラー服にモンペ姿だったから、きっと高校生くらい?


その格好から、多分戦時中なのだと思った。


夢の中で私は恋をしていた。


いつも私にこっそり四葉のクローバーをくれた学生さん。


高橋健二さんという人に。


私はもらった四葉を押し花にして、しおりを作ってその健二さんにプレゼントしていた。


健二さんはそれを受け取ると、ものすごく大げさに喜んでくれた。


切れ長の目の整った顔が、笑うとくしゃっとなって、目が線みたいに細くなって見えなくなった。


私は夢の中だというのに、その笑顔に胸がドキドキした。


その時代は、男女交際を表立って出来なかった様子で、私と健二さんは隠れてコッソリ会っていた。


いつも街の外れの小さな神社の裏の森で会った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る