第114話


その精神的悲しみがピアノにも響いたのか指もあまり動かなくなった。


発表会では緊張のあまり演奏中に曲が思い出せなくなって途中退場した。


家では最後まで弾けるのに、ステージにあがってライトを浴びると頭が真っ白になって、曲を覚えているはずの指が全く動かなくなってしまったのだ。


私はトイレに走って行って一人で声も上げずに泣き続けた。


恥ずかしい、情けない、という気持ちもあったが、それよりも家族、特に母親に恥をかかせてしまってどうしよう、という気持ちでいっぱいで、みんなのところに戻っていけなかった。


私がしばらくトイレに篭っていると、何故わかったのか、こっそり祖母が迎えに来てくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る