第96話 もう一つの人知れない恋の話15


「あの、うちに御用ですか?」


振り返ると体格のいい女性が大きな鍋を持ってニコニコして立っていた。


「あ…いえ、すみません、お宅を間違えてしまったみたいで…。」


澄子がオロオロしていると、女性は眉を少ししかめて、何かに気付いたように言った。


「間違っていたらごめんなさい。もしかして…澄子さん?」


澄子は驚きで言葉が出なかった。


「やっぱりそうですよね?どうぞ!中へ入ってください!」


女性は笑顔に戻って、澄子に優しく言った。


澄子は遠慮して立ち去ろうとしたが、女性は澄子の手をとって家の中へ連れて行った。


澄子を居間に通して、しばらくしてからお茶を持ってやってきた。


「びっくりさせてごめんなさい。私、夫から澄子さんのこと聞いてて…って、私が無理矢理話させたんですけど…、すみません、悪気は無いの。全て聞いておきたかっただけなんです。私、和夫さんの妻の良子です。」


「は…はあ…。」


澄子は混乱してしまって、返事をするのがやっとだった。

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