第94話 もう一つの人知れない恋の話13


 小夜は弟に頼んで友達のフリをして和夫の家に電話をかけ、現住所を教えてもらった。


次の日、小夜は澄子に和夫の住所を渡すと、誠一を預かってくれた。


澄子は電車に飛び乗り、誠一の暮らす街へ向かった。


会ってどうこうしようという気持ちは無いが、澄子には何か救いのようなものが欲しかった。


電車を降りると駅前はごちゃごちゃした雰囲気の街だった。


駅前の川沿いには柳の木が等間隔で植えてあって飲み屋が並んでいた。


すぐ前のパチンコ屋からはうるさい音楽が垂れ流しになっている。


商店街は昼間でも薄暗く通路が狭い。


きっとここは戦後闇市で、それがそのまま商店街になったのだろう。


そんな感じの街並みだった。


しかし街は活気があり、どこも人が溢れている。


この街で和夫が生活しているのだ。


この駅を毎日使っているのだろう。


この喫茶店に妻と来ることもあるのだろうか?


突然胸が苦しくなった。


自分には嫉妬する資格すら無いというのに。

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