第36話 人知れない恋の話3


床を見ると高級そうなラジオが落ちていた。


和夫は急いで小豆の袋を工場に運んで、澄子のところへ行った。


「大丈夫?怪我してない?」


和夫は心配して澄子に言った。


「わ、私、どうしよう…。お父さんの大切なラジオが…。」


澄子は目に涙を浮かべてうろたえていた。


和夫はラジオを持ち上げ調べてみた。


スイッチを入れても音がしない。


「壊れてますよね…?」


澄子は大きな目から涙をポタポタ流しながら和夫に聞いた。


「ちょっと中開けてみていいかな?」


和夫が聞くと、澄子は涙を流したまま唇を噛みしめて何回も頷いた。


和夫はラジオを工場に持っていって、工場にあった工具を取り出し、慣れた手つきでラジオのネジを外していった。澄子は和夫の後に付いてきて、少し離れたところから心配そうにその様子を見ていた。


和夫はしばらく無言でラジオをいじっていた。


人気の無い工場に和夫の工具をいじる音だけが響いていた。

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