第35話 人知れない恋の話2


 そんな和夫が澄子と出会ったのは、彼女の父親が経営する大黒堂という和菓子屋だった。


大学に入学した年から、長期休みで実家に帰ってくる時は必ず近所にあった大黒堂でバイトをさせてもらっていた。


和夫は21歳、澄子は18歳の高校三年生だった。


澄子は地元のお嬢さん学校と言われている女子高に通っていた。


澄子も外国の音楽や文学に興味を持っていて、英語を勉強したいと思っていた。


家は先祖代々仏教徒だが、澄子はクリスチャンに憧れていて、親に隠れて町の外れの教会に通い、こっそり宣教師に英語を教えてもらっていた。


いつかは外国に行ってみたいと思っていた。



 その日は大黒堂の人間は店番を残してほとんどが出払っていた。


他県の百貨店で甘い物市が開催され、この街から大黒堂が出店することになり、その準備に追われていたのだ。


バイトの和夫は工場の掃除と倉庫から材料を運んでおくように言われていて大黒堂に残っていた。


工場と倉庫は庭を挟んで母屋の向かい側にあった。


和夫が倉庫から小豆の大袋を肩に背負って工場に運んでいるとき、母屋から何か床に落としたような大きな音が聞こえた。


気になって母屋の方へ行ってみると、この家の娘の澄子が青ざめて震えていた。


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