再び

@moyashi_gene

全編

 少し前に、とても嫌な目にあった。

 しばらく1人になろうと思った。誰かがいれば当たってしまいそうで、逆に大通りの活気あふれる場所だと、関係のない些細な幸せでさえ憎らしく思える事を知っている。なので、誰もいない静かな森を歩こうと決めた。

 1時間ほど歩いたところで湖についた。確かこの先には小さな村があったはずだ。湖には水鳥が何羽も泳いでいる。私は何の気無しに小石を投げ入れた。

 鳥たちが驚きバザバサと音をたてて飛んでいく。ふいに「あーーーーーーーーー!!」と、悲痛な声が聞こえてきた。

 音のする方に向かうと、何か水色の生き物がしょんぼりと座り込み、スケッチブックを鞄に詰め込んでいた。

 「苛立っているからと言って、周りが見えなくなるのはいけないよ君。」

どうやら私に言っているようだった。ごめんなさいと謝ると、別にいいよと許してくれた。

 こんな森に誰かがいることが不思議だった。どうしてこんなところに?と聞くと、

「わりゃのことが気になるのか?わりゃの名前はチェッカー。何かを書き留めておくのが好きでな、毎日ヒマだからこーやって誰かが来たら話しかけて、その事を記録してる。」

と1人でに話し始める。

「へぇ、なんだかセーブポイントみたいだね。」

「せーぶぽいんと?まぁ、間違ってはいないと思うぞ、記憶操作とかできるし…」

「記憶操作?」

あっしまったという反応をチェッカーが示すが、私は構わずに問いかける。

 …嫌なことがあったのだ、誰だって気になる質問だと思ったのだ。

「チェッカーがセーブポイントならさ、それまでの記憶とか…つまり、生きていた証とか全部消せちゃうわけ?」

明らかに嫌そうな反応をされた。チェッカーは、はぁとため息をつく。

「また口が滑ってしまった、このクセは直さないとな。しかし、どうして皆口をそろえてその事を聞くんだろう。『はい、じゃあ今から人生終わりまーす…』なんて言われたら怖くないの?」

「怖いっていうか気になる。できるの?」

「…できるぞ、できるけどしたくない。」

 しばらく沈黙が訪れた。しばらくして場の空気に耐えかねたチェッカーはこう言った。

「まぁ、いいか。そんな事したらどうなってしまうのか、教えてやろう。」

ぽつりぽつりと語り出す。

 信じられないような話だったが、こいつが言うと変な説得力があった。本当にそうなのかもしれないし、本当は違うのかもしれない。

信じるのは君の自由だとチェッカーは言っていたから。

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