第48話 異世界の試験

「じゃあ、今日はここまでね」

俺はそういって、「書学」の教科書をぱたんと閉じた。


午前の授業を終えた俺とリアナは、すぐさま身支度を始める。

もちろんギルドでの能力試験を受けるためである。


筆記試験の開始は二時ということになっていた。



動きやすい方がいいだろうということで、俺は膝下までのフレアスカート(比較的マシ、というだけだ)を身につけ、青色の髪留めで長い金髪をまとめた格好である。


リアナはブラウスに、気に入っているらしい黒いキャミソールのワンピースを重ねていた。


「黒色の服多いよね、リアナ。好きなの?」

俺がなんとなく聞いてみると、リアナは唇に人差し指を添え、少し考えてから答えた。


「魔獣除けにいいって、お父さんが小さい頃よく言っていたの。まあ、黒が好きっていうのも間違いではないわね」


魔獣除け。少し意外な答えだ。目立たないからだろうか。



他愛のない話をしながら、昨日の道順をたどるようにしてギルドへと向かう。


試験を受けに行くのか、同じ方向へと向かう冒険者らしい人の姿も何人か見受けられた。




試験は筆記と実技で分けて行われることになっている。

エルシーによると、一度の試験で上がることができるのは最大で五階梯までらしい。


現在第一階梯の俺たちは、最高で第六階梯まであがることができるということだ。


そうそうそんな人いないけどね、とエルシーは言っていたが。


冒険者組合の建物に入ると、すぐに、昨日見たオレンジ色のジャンパースカートが目に入った。


「あ、リアナちゃんにノエリアちゃん! 試験を受けに来たんですか?」


エルシーだ。昨日見たときよりも少し忙しそうな様子で、今も何かの資料のような紙束を持って、奥から出てくるところだった。


「ちょっと待っていてくださいね。すぐに案内しますから」

そう言って、エルシーは冒険者組合の建物の外へと出て行った。




待つこと十分ほど。時刻は一時四十五分だ。

戻ってきたエルシーが、ごめんなさい、と軽く手で謝罪のポーズを取りながら俺たちの方へと駆け寄ってきた。


「試験で人手が必要な時なのに、急に土木ギルドの方から連絡が入ってきたんですよ。お待たせしました」


気にしないでください、と俺は首を振った。

「土木ギルドって、何かあったの?」


リアナがエルシーに尋ねる。するとエルシーは微苦笑を浮かべた。


「いえ、急な建物の建設依頼があったというだけですよ、冒険者組合の方で人手を集められないか、って」


なるほど、そういうわけか。なんだか派遣会社みたいだな、冒険者組合って。


「さあ、行きましょうか。試験場へ」

俺とリアナはエルシーの後に続いて、筆記試験が行われるという2階へと向かった。



「制限時間は一時間。三時には回収し、魔法具で採点を行います。」


二十脚ほどの机が並べられた部屋で、試験監督役らしいエルシーが告げる。


受験者は俺たちを含めて十八人ほど。俺達の同じくらいの年齢の少年から、エルシーと同じくらいに見える若い女性まで。受けているのは比較的若い世代ばかりのようだ。


試験問題は第一階梯から第九階梯まで同じで、すべて選択問題である。


ある意味特殊な称号である第十一階梯以上を目指す受験者は、また個別の試験となるらしい。


国内でも、試験を行うギルドはいくつかの市に限られているらしい。なのでもっと人が集まるものかとも思っていたのだが、そういうわけでもないようだ。


試験は月一回という結構な頻度で行われる。

その上、職業として冒険者についているような庶民にとっては、上の階梯に行くために努力する余裕があるなら、依頼の一つも受けた方がいいという事なのだろう。


実際、庶民階級の冒険者のほとんどはこの試験を人生で一度、多くても二度ほどしか受けないらしい。


まあ、分不相応な依頼を選んでしまうことを防ぐという意味での試験の意義を考えるなら、むしろそちらが正しいのだろう。



「はじめてください」

エルシーの声が部屋に響いて、俺は配られていた紙束を裏返す。


元の世界の学校の試験もこんな感じだったな、などと懐かしさに浸りかけていた思考に歯止めをかけて、俺は目の前の問題に意識を注いだ。


〈問1:魔力値13で状態復元の白魔法『restore』を詠唱するときの詠唱文として正しいものを、次から選びなさい。ア:blanch white:μ;do restore; イ:dye black:μ;do restore;

ウ:blanch white:ν;do restore; エ:dye black:ν;do restore;〉


これくらいなら簡単。答えはウだ。「dye black」といえば黒魔法の宣言文である。


だが、問題のジャンルは何も、魔法科学だけではない。


〈問4:次のうち、風魔法での攻撃が有用な魔獣を選べ。ア:グリフォン イ:カーバンクル ウ:ケットシー エ:ゴブリン〉


〈問6:雷獣の成獣の体長に最も近いものを次から選べ。ア:0.5メートル イ:1メートル ウ:1.5メートル エ:2メートル〉


〈問9:ヘビースコピオンを討伐、解体した後、回収してはいけない部位を次から選べ。ア:腕 イ:頭 ウ:目 エ:尾〉


やはり冒険者に向けた試験であるからか、魔獣について問う問題が多いようだ。


俺は正面を向いて一つ深呼吸をし、また問題に向き合った。この感覚は、なんだかとても久しぶりだ。

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