第14話 風魔法と魔力
初めての魔法を使い、メイド服で掃除をしたその翌日。小鳥の
俺は朝食を済ませ、1人中庭に出ていた。
もちろん、昨日教わった魔法を練習するためである。
「『wind blow:
意識を集中させ、昨日と同じ魔法を発する。当然スカートは押さえたまま、だ。
次の瞬間、俺の周囲に突風が巻き起こる。
そして意識を魔法からそらすと、それに合わせるようにして風もおさまった。
頭に浮かぶ魔力の残り値は、やはり初期値の80のままだ。
これは一体、どういうことなのだろう?
ならば一度、別の魔法を試してみよう。そう思い今度は、昨日お風呂でずっと練習していた水魔法を唱えた。
「『water flow:
風呂には、この家の他の人達が上がった後に入れさせてもらっている。
だからかえって、時間を気にせずに入っている事ができるのだ。
詠唱を終えると、まもなく、一本立てた人差し指の上に水球が浮かびあがる。
そして、手首のスナップをきかせつつ指を地面に向けるようにして振ると、その動きに合わせて水球が地面に向かって飛んでいき、そして破裂した。
昨日セラフィに見せてもらった通りの動きである。成功と言って差し支えないだろう。
水魔法を使ったことで、魔力の残りは78になった。
練習の成果か、昨日よりは消費魔力が減っている。だがそれでも「α」の魔法で消費魔力が2。
「
俺は、このことが昨日から気になって仕方がなかったのだ。
一人腕を組み中庭で考え込んでいると、背後から不意に声をかけられた。
「ノエリア先生、どうしましたか?」
庭の手入れをしていたセラフィだった。そのまま、俺の方に駆け寄ってくる。
「いや、何で魔力が減らないのかなって、考えてたんですよ」
「『κ』の魔法でも魔力が減らない、ということですか?」
俺は小さく頷いた。
「実はあの後少し考えてみて、一つ思い出したことがありまして……」
「何ですか?」
自分で思ったよりも大きな声が出た。俺は目を輝かせてセラフィの方に体を向ける。
「実は以前、優秀な火魔法使いの方にお会いしたことがあるのです。その方がおっしゃっていたのですが、『練度があまりに高くなると、初級で威力の少ない魔法を使った時の消費魔力が、その消費を感じられないほどに小さくなることもある』そうなのです。ひょっとすると、それではないでしょうか?」
感じられないほどに小さい、か。
80あった魔力が79.999になっても、その差に気付けないとか、そういうことだろうか。
「でも私、風魔法なんて使うの、初めてですよ? 練度なんて」
いや、ノエリア自身に魔法の経験があった可能性はあるかもしれない。
しかし、教科書の説明では、熟練度というのは身体的な慣れの他に、集中力や思考、詠唱の慣れの影響が大きいという話だったはずだ。
中身が変わっている以上、ノエリアの練度がそのまま俺に受け継がれているというのは考えにくいだろう。
「消費魔力を決めるのは、前にも申し上げた通り適性と練度です。確かに練度は練習量に依存しますが、適正は生まれつきのものです。ですから初めてかどうか、というのは関係がないんです。ですからきっと、先生は風魔法への適性がとても高かった、ということではないでしょうか」
セラフィがそう説明しながら、俺の頭をまた撫でてきた。
やめて、と言おうかと思ったが、だんだん気持ち良くなってきてしまった。
おい、まずくないか、これ。
そんな俺の動揺をよそに、セラフィは突然何かを思いついたというように、パン、と手を叩いた。
「先生、もっと大きな魔法、使ってみませんか?」
セラフィが、庭の手入れで出た木の葉を幾らか運んできて、地面に置く。
「どうするんです、これ?」
その行動の意図がいまいち読めずに尋ねると、セラフィは不敵な笑みを俺に見せた。
「一度私がやってお見せします、ご覧になっていてください。」
そう言ってセラフィは、目の前の木の葉に意識を集中させ始めた。
「『wind blow:
何枚もの木の葉と砂とが混じって、空中で輪を描く。これを見ると、本当に魔法で風を起こしているのだな、ということが改めて感じられる。
そして、指揮者が演奏を止める時のように軽く空気を
「この魔法は、『
なるほど。大きな物を動かす時に、小さな力だけではそもそも動かない、という感じだろうか。
「先生もどうぞ、やってみてください」
そう促され、俺は先程セラフィがやっていたように、木の葉に意識を集中させた。もちろん、スカートを押さえておくことを忘れない。何だか、この姿に馴染んできてしまっている気がするが。
「『wind blow:
先程と同じように木の葉が巻き上げられ、集中をやめるとそれらも地面へと落下した。
「どうですか、魔力の消費は」
頭に浮かぶ数字は、やはりさっきの78からは変わっていない。
「減ってない、ですね」
もう少し威力をあげようか、と再び意識を集中させていたところで、遠くから声をかけられた。
「やあ、ノエリア君にセラフィ君、魔法の練習かな?」
中庭の端でアーネスト市長が、こちらに軽く手を振っていた。
この時間は市役所にいるはずなのだが、どうしたのだろう。
セラフィが指でメイド服のスカートを摘まみながら優雅に挨拶する。慌てて俺もその真似をした。なんでスカート摘まむんだろうね、これ。
「ご主人様、どうかなさいましたか?」
「ああ、ちょっと用事でね。リアナはいるかな?」
言いながら市長は、視線を周囲に
「リアナ様なら、まだ部屋でお休みになっているかと。お呼びして参りましょうか?」
「はは、頼むよ。全く、あの子は相変わらず寝坊だね」
そう言って、アーネスト市長は明るく笑った。呆れているというよりも、娘が愛しくて仕方ないというような表情だ。
「寝る子は育つといいますから」
セラフィはそう笑顔を返しながら、屋敷の中へと向かっていった。
「それから、ノエリア君」
「あ、は、はい!」
急に声をかけられた緊張のせいで、ただでさえ高い声がなおのこと高くなる。
「君にも、少し頼みがあるんだ。後で書斎に来てもらえるかな?」
「は、はい、承知しました」
俺は、屋敷の方へ入っていく市長の背中を見送りながら、地面に散らばった木の葉を手でかき集めていた。
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