第9話 はじめての魔法
その夜。部屋に戻った俺は、ベットの上に座りこんで、授業でも使った教科書の、少し進んだページを読んでいた。
俺が割り当てられた部屋は、一人で過ごすには少し広いくらいである。二十畳ぐらいはあるだろう。
そしてそのせいか、俺はいまだに、一人旅をしているかのような浮遊感を覚えていた。
市長もセラフィさんも優しいし、リアナもとてもいい娘だ。今日の夕食の野菜スープもなかなかの美味しさだった。不満は何もない。
けれども俺は、自分がここにいるのは何だか場違いな気がして仕方なかったのだ。
それが、ここが不慣れな土地だからなのか、体が自分の身体ではないからなのか、あるいは別の理由なのかは分からないが。
視界の隅に垂れた綺麗な金髪を指でつまみ、一つため息をつく。
そうして頭を
俺が
どんな声かはっきりとは思い出せない。だが、知っている声ではないかと、感覚的に思った。
「もう、戻れないんだろうな」
仮に元の世界に戻れたとして、その世界に既に俺の身体はない。
けれども、世界を去る前に、
ただ、それだけが心残りだった。
「そんなこと考えても、仕方ない、か......」
ふと目を落とすと、さっきから教科書が1ページも進んでいない。
俺は、意識の奥に
翌朝八時。朝食もそこそこに、セラフィは俺とリアナを連れて屋敷の中庭にやってきていた。
テニスコートを2、3面は確保出来そうなほどの広い中庭の中央に立って、セラフィは
リアナもさっきまではかなり眠そうにしていたが、魔法実技の授業とあっては気分も
「では、
そう神妙に口にし、一礼するセラフィ。しかし、その
「お願いします」
「お願いするわ」
この日の俺の服装は、水色がベースの、シンプルなワンピースだった。
この世界も5日目になり、だんだんとこういった女の子の
一方のリアナは、黒色が印象的な、いわゆるゴスロリに近い格好をしている。
綺麗に手入れされた銀髪に良く
「じゃあ、まず一番簡単なのから始めましょうか。とりあえず、やってみますので、ご覧になってください」
そう言ってセラフィは、おもむろに右腕を正面に伸ばし、人差し指を立てた。
「water flow:
突如セラフィの口から飛び出した
そうしている間に、セラフィの右人差し指の上には、ピンポン玉ほどの大きさの水の球が浮かんでいた。
軽くスナップをきかせて彼女が指を振ると、それに合わせて水球は前に飛び出す。
そしてそれは、俺とリアナの立つ間の地面に、ピチャッ、と涼しい音を立てて地面に
「英語、ですか?」
地面にできた水の跡をしばし呆然と見つめていた俺は、我に返ってセラフィに尋ねた。
「英語、そういう言い方もございますね。確か、中等学院では、
俺は
「
「……
セラフィさんは満足そうに笑う。心臓に悪いからやめてほしい。
一方、一人
「ねえ、ちょっと、二人で楽しまないでもらえるかしら? 私にも魔法教えてよ」
「大丈夫、私もまだ教わってないから」
本当? と疑わし気に首を傾げるリアナ。
それを見てセラフィは一つ
「魔法が古代言語をベースにしているのは、当然、神アルテミスが降臨した6000年前の言語が古代言語だったからと、言われております。今の言語も、多少は古代言語の影響を受けていますけれども」
昨日の授業内容とつながって、俺は
やはり神様の考えることは分からない。俺は身に
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