第46話 信じる心

「それは――」

「僕だって、この世界を救うために、自分の意志で進んできた。宝石を護れなかった責任もある。それに、コズ一人に背負わせたくない」



 コズが何かを言おうとする前にレファはその言葉を遮った。

 レファが包むコズの手が、少し震えていた事にレファは気付いて、その手を強く握り直す。



「大丈夫、二人でやれば、魔力も上がる。成功する可能性だって上がるはずだ」



 レファは強く頷く。



「待て待て、お前ら! まさか、揃って死ぬつもりか!?」



 スパーシャが慌てふためいて言葉を口にする。ガシャガシャと金属の身体が音を立てる。



「というか、それなら俺だって――」

「スパーシャには、サイエに青空を見せる約束があるだろ」

「それは、そうだけどよ! こんなところで友達が死ぬのを黙って見てろってのは無理だぜ! 俺は反対だ!」

「スパーシャ、何も僕たちは死のうとしてるわけじゃない。この黒い海を取り払おうとしてるだけなんだ」

「ほとんど死にに行くようなもんだろ!」



 スパーシャは尚も食い下がる。目尻には少しの涙が煌めいている。



「失敗したらね。でも、成功すれば大丈夫。コズ、魂を燃やし尽くす、ぎりぎりの手前まで魔力を振り絞るんだ」

「どうやって――」

「信じるんだ。自分なら、できると。魔法は、魔力は僕たちの信念から出来ている。信じて、信じて、ただ自分たちを信じて貫くんだ。そうすれば、きっと結晶も大いに応えてくれる。期待以上の力を引き出せるはずだ」



 レファとコズは崖の向こう、黒い海の流れを見る。

 何をも寄せ付けんとする、光も反射しない漆黒の流れ。



「――――! 必ず成功させろよ! ばかレファ! ばかコズ! ばーか! 帰ってこなかったら、あることないこと喚き散らしてやるからな!」



 もうどうにでもなれ、というように叫ぶスパーシャに、コズは振り返って笑いかけた。

 コズが前に向き直る。



「わたしが、結晶の力を引き出すから、レファはわたしに魔力を」

「任せて」



 コズは結晶を左手に握り直す。レファはその左手を右手で握る。結晶を挟んで、繋がる。



「コズ」

「レファ」



 二人は息を合わせて前へ進む。一歩、また一歩と崖の縁へ歩み寄る。


 二人で息を整える。

 

 目を閉じ、息を吸い、吐く。目を開ける。

 

 隣にいるお互いを見やり、結晶を挟む手に力を込める。



「宝石よ――」



 コズの語り掛けと共に、二人は漆黒の海に向かって崖を飛び降りた。

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