第45話 碧い瞳の少女

 そこは、海がのぞめる崖だった。

 レファ達が、冬の時代からこの最後の時代に至った時に、初めて降り立った大地。

 

 

「おいおい、急に慌てて走り出すなよ」



 慌てて後ろをついてきたスパーシャが少し息を切らせながら言った。



「ごめん、でも――」



 コズはスパーシャへの謝罪もそこそこに、崖へ歩み寄っていく。



「コ、コズ」

「大丈夫、見てて」



 レファの呼びかけに、コズは振り返ってそっと笑った。金髪のサイドテールが風に揺れる。

 コズは結晶を両手に包み、祈るような形でその手をかかげた。

 

 

「ふむ」



 唐突に、一行に聞き覚えの無い声が響いた。それは、コズの手の中から聞こえてくるようで、そしてその声に対して、レファだけは聞き覚えがあった。



「よもや、このような事になろうとはな」

「もしかして――姫、ですか」



 レファは恐る恐る声を上げる。



「いかにも。して、そなた。我が国の宝石を護る事は叶わなかったようだな」



 その声は、レファが渡った国の先にて、国をべていた姫の声だった。

 

 

「それは――申し訳ありません」

「よい。それも決まっておった事なのだろう。我としても、この身が本体ではない故に問題はない」

「と、仰るのは……」

「元より、かの国の宝石と我の心は繋がっておった。宝石に何かあれば、すぐに我にはわかるようにはなっている。あの間で宝石が砕かれた瞬間、我はこの欠片と共にそなたを元来た道へと追い返した」

「魔法を……お使いになられたのですか」



 結晶は姫の声をもって尚も語る。



「そのような物は知らぬ。我は結晶の力を使ったにすぎん。して、危機を悟った我はそなたと共に、結晶を逃がすことでその先に賭けたということだ」

「どうして、僕に」

「馬鹿者。あの場で賭けられるものがそなたしか居なかったまでのこと。しかして、その賭けは妙に成功したようだ」



 声がそこまで話すと、コズは腕を下ろしてレファとスパーシャの方へ振り向いた。



「二人とも、聞こえた?」

「え、ああ」

「ハッキリとな」



 コズは少し恥ずかしそうに笑った。



「今のはね、わたし。ううん、正確に言うと結晶の声を、わたしの魔力――だと思うんだけど、それを通して二人に聴かせたもの」

「コズが、結晶の声を……?」



 レファは思い至る。かの国で見た姫の姿を。コズと同じ、輝くような金色の髪の毛に、透き通るような青い、あおい瞳。



「わたし、できるよ。この結晶の中の、宝石の力を使って。身ためは小さいけど、この結晶には、それだけの力が備わってる。私の魔力を与えさえすれば――黒い海だって浄化できる」

「それって――」

「待て待て、それってまた、レモゥさんとおんなじことやろうとしてんのか!?」



 レファの言葉を遮って、スパーシャが怒りをあらわにして前に歩み出る。レファも、コズの真意を問うように正面から彼女の顔を見る。

 コズは、また少し恥ずかしそうに笑った。

 

 

「だってさ、みんな頑張ってるんだもん。わたしだって、頑張りたいよ。もし、わたしがこの結晶を使って、世界を救えるのなら、それがわたししかいないなら、やりたいんだよ」



 コズは更に笑顔を大きく、花開かせる。その満開の花に、スパーシャは思わず押し黙る。



「成功……するの?」

「わからない。わたしの魔力なんて、使ったことないから」



 コズははにかむ。



「だったら」



 レファは力強く言葉を口にして、コズに歩み寄る。



「僕の魔力も使おう」



 そしてコズの手を取った。

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