第44話 あおのひとかけら
昔々、あるところに綺麗で大きな蒼い宝石がありました。
その宝石の輝きは絶えることなく、世界を優しく包んでおりました。
ですが、その輝きを狙う姑息な一人の人間がいました。
その人間は、心の弱さからマモノに取り憑かれてしまった悲しき人間でした。
そこに、強い心を持った少年が現れました。少年は剣を持ってマモノに立ち向かいました。
けれども、姑息なマモノの前に、蒼く美しい宝石は砕かれてしまいました。
しかし、宝石はまだその輝きを、失ってはいませんでした。
その欠片は、弾けて、少年の掌に収まり、蒼く、強い輝きを放ちました。
***
「レファ! レファ!」
レファは目を覚ました。石畳の上、ここが自分の国だということを理解するのに少し時間がかかった。
上体を起こす。コズとスパーシャが心配そうにこちらを覗き込んでいる。
「謁見の間……?」
「そうだよ、行ってしまったと思ったら、すぐに帰ってきたんだもん」
レファはあたりを見渡す。何の変哲もない、見知った城の中。
コズの言葉から察するに、自分が時の向こうへ旅立ってから殆ど時間が経っていなかったらしい。
「レファよ」
「王」
次第にレファの意識が覚醒してくる。レファは王の声を聴いて、はっとする。
寸前の光景が脳裏に蘇ってくる。マモノとの闘い、兵士の肉を貫いた感触、そして、宝石を護れなかったこと。
「申し訳――ありません……ッ」
「おい、おいおいおい。マジか、レファ!」
沈痛な面持ちで血が出る程に唇を噛み、
それは落胆というより、レファの成功を何よりも信じていたからこそ出た純粋な驚きの声だった。
「仕方あるまい……しかし、レファ。そなたはどのようにして戻ってきたのだ」
「それは……?」
レファははっとする。あの光が失われる中、時間の道にも至らず、果たして自分はどのようにしてここに帰り着いたのか。
「ねぇ、レファ」
レファの横から、コズがすっと顔を出す。
「その手に握っているのは……?」
「え?」
コズに言われ、レファは初めて自分が固く手を握っている事に気が付いた。
何かが、その手の中にある感触がした。
恐る恐る、手のひらを開く。そこには、蒼い、小さな輝きを放つ結晶が在った。
「これ……は?」
「ねぇ、レファ。それを、貸してもらってもいい? なんだか、呼ばれている気がするの」
「あ、うん……」
コズの言葉に、レファは結晶を手渡す。彼の手から彼女の手へと移ったそれは、その淡い輝きを少し増した気がした。
「――!」
「コズ?」
コズは、殆ど反射的に目を見開いた。その様子に、レファが心配そうに語り掛ける。
「レファ、行きましょう」
「え?」
「お、おい!」
コズはレファの手を引いて走り出す。
謁見の間を抜け、城を抜け、街を走る。見えない何かに導かれるように、ただ走る。
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