第43話 一閃
迫りくる手を切り払い、レファは徐々に間合いを詰めていく。
マモノの手は高速で再生を繰り返し、レファの剣を
じりじり、じりじりとレファがマモノへ詰め寄る。しかし、それに伴ってマモノもレファから離れるように、また元来の目的である宝石の安置場所へ向かっていく。
「キリがないな、お前」
マモノに操られた兵士の放つ、呆れたような声には耳を傾けずにレファは剣を振るい続ける。
迷わず、振るい続ける。
たとえそれが、この取り憑かれた兵士の命を奪うことになってしまうとしても。
レファは一種の狂気に取り憑かれたように、信念をもって剣を振るい続けた。迫りくるマモノの黒い手を、横に薙ぎ、縦に断ち、突いて
「劣勢ってやつだ」
マモノは事も無げに言い放つ。まるで興味がないように。
「ごめんなさい」とレファは心の中で謝る。剣を下段に切り払い、兵士の膝を打つ。鎧の関節から強い衝撃を与えられ、兵士の足はあらぬ方向へと曲がる。ぐらりと体勢が揺らぐ。
レファは間髪入れずに床を蹴った。心臓を一突き、狙いを定める。
「た、助けてくれよぉぉぉ」
その時、兵士の表情が一瞬だが人間のものに戻った気がした。レファの気が逸れる。
間一髪、マモノはその場で転がってレファの剣を避けた。
「愚かだなぁ、本当に」
マモノはせせら笑うと、倒れこんだ兵士の身体はそのまま背負う形に、自らの黒い手で地面を這い始める。向かう先は、蒼い宝石がある方向。
「っ……逃げられると思うな!」
レファは素早く遠ざかるマモノにを一喝して、手をかざす。白い閃光が迸る。
それはマモノの行く先に雷となって飛来し、行く手を遮った。
「おお、思っていたよりも多才だな」
勢いの死んだマモノに対し、レファは再び飛び掛かる。
諦めてその場で応対するマモノの手を切り払い、着実に距離を詰めていく。
一歩、二歩、その距離が詰まっていく。兵士の身体は力なく横たわっており、マモノの手は攻防に忙しくその兵士を立たせるに至らないらしい。
レファは好機と見て畳みかける。
「おおおぉぉっっ!!」
雄たけびを上げ、力強い一突きをその心臓目掛けて繰り出す。うつぶせに倒れこんだ兵士の左胸へ向けて、レファの剣の切っ先が迫る。黒のマモノの手はその勢いを止めることができず、刃はその身に迫る。
ずぷ、とレファの手に初めての感触が走った。肉を貫く感触。
レファは雑念を振り払う。今は、己を信じろと自らに言い聞かせる。
刃がその肉を貫く。心の臓を貫く。
レファは、時の流れが全て止まってしまったかのように感じた。
今までの奮戦の音は消え、辺りは静寂が支配していた。
部屋の方々には兵士たちの身体が横たわり、レファの剣は一人の兵士の身体を貫いていた。
「ざーんねん」
不意に声が響いた。
そこで、レファは致命的な判断ミスをしていたことに気が付いた。
マモノの核となる部分は、この人間の心臓ではなかったのだ。
マモノは兵士の背から黒い手を二本、宝石へ向かって鋭い勢いで、長く伸ばす。
レファは剣を手に取った。抜けない。人間の肉を深く貫いたその鉄の剣は、簡単には引き抜けなかった。
「やめろおおおぉぉぉぉっ!」
レファは力の限り叫び、剣を離して拳を振る。
拳は黒の形を変えこそすれ、穿つには至らず、そのマモノの手は勢いのままに宝石へ伸びる。
伸びる。
伸びる。
レファは力に任せて剣を引き抜き、兵士の頭を落とした。
マモノは核を傷つけられ、消滅する。
しかし、一瞬遅く蒼の宝石はレファの目の前で削り取られ、砕かれた部分が飛び散った。
そして急速に宝石は光を失っていった。
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