第41話 碧眼の姫

 レファは歩く。長い永い、道のりを。

 ただひたすらに前を向いて。

 次第に前方に白い光が見えてくる。

 その輝きは、レファが一歩一歩近づくごとに強くなっていく。

 強く、強く光り輝く。

 やがて、光がレファの全身を包み込む。

 

 


***

 


 

「何奴だ!」

「姫、お下がりください!」



 光に包まれたレファは一瞬何が起きたのかわからなかった。

 眩しさに目を瞑り、それでも歩き続けて、いつの間にかつるつるとした石の床の上に座り込んでいた。

 レファの周りを、数人の男たちが取り囲んでいる。レファは、移動が成功した事を知る。



「待ちなさい」



 凛とした女性の声が響く。その声に、レファを取り囲んでいた男たちが、少しだけの距離を取った。

 声の反響、部屋の奥にある玉座のようなものから、レファはここが謁見の間のようなものであることを理解する。

 そして、歩み寄ってきた女性に視線を合わせる。

 その女性は、レファと同じ年代のように見えながらも、確固たる意志を持った一国の王ように堅強な表情をしている。

 冠を頭に携え、白装束を身に纏ったその少女はウェーブのかかった金髪に碧い瞳を持っていた。



「そなたは、如何様にここに立ち入ったのでしょうか」

「僕は……僕は、貴女様の国にある、宝石を護りに参りました」

「宝石を……護る?」



 レファは立ち上がる。周囲にいた兵隊たちは警戒を強め、武器をよりレファの側へ傾けたが、レファは臆することなく語る。



「遠い先の未来、人類は滅びます。それは、この国にある、世界を照らす宝石が打ち砕かれた事に端を発します。近いうちに、その事件が起こると思われます。どうか、僕にそれを守らせてはくれませんでしょうか」



 レファは毅然きぜんとした態度で語る。



「姫、妄言です。牢に繋ぎましょう。どこぞと現れたもわからぬのです、信ずるに値しません」

「早計です、待ちなさい。そなたには、この者の目が見えませんか」



 姫と呼ばれた少女は声を上げる兵をたしなめる。

 姫はレファの目を真っ直ぐに見据える。



「そなた、名は」

「レファと申します」

「そなたの目は、強い光を宿している。それは真に自らを信じた者が宿す、光だ。しかし、安易にそなたを信ずることはできん。如何様いかようにして表れたかもわからぬ人間だ。マモノが化けてるやもしれん」



 レファはその単語に敏感に反応する。



「マモノが、いるんですか」

「ここにはおらぬ。だが、くらき淵より、常に我らに付け入る隙をねろうておる。マモノは宝石の光に近づけやせん。万が一にでもそなたがマモノであることはないだろうが、世の理に絶対とはないものだ。油断はできぬ」



 レファは、姫の言葉に黙って頷く。



「しかし、我の目が腐り落ちたつもりはない。この碧眼は正しきを捉えておる。そなたの心は信じよう。して、宝石の間の門番あたりになら任命してもよい」

「十分すぎる程です」

「姫!」

「案ずるな。そこで怪しい動きを見せるのであれば、門番や、宝石の間の中の警護の者が捕らえるであろう」



 姫はそこまで言うと、きびすを返して玉座へと戻っていく。

 その途中で、思い出したように姫が振り返る。



「ところでレファよ――そなた、どこかで我に会ったことはあるか?」

「いえ……記憶にはございません」

「そうか」



 その答えを聞くと、姫は興味をなくしたように再び振り返って玉座へと戻った。

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