第38話 魔法道具たち

「ここですね、下がって下さい」



 レモゥは三人が十分に下がったのを見ると、石の床に向かって手をかざす。

 魔法で錠を施されたそれを解除すると、石の床はその役目を終えたようにぱらぱらと零れ落ち、古い階段が現れた。



「さっき言ってた結界は?」

「大丈夫です。私が対処しますので心配せずについてきてください」



 一行は階段を下りる。暗がりを照らすために、レファは指先に炎を灯して、レモゥと共に先導する。

 階段は程無くして地下へとたどり着いた。大きな扉が四人の前に立ちはだかる。



「スパーシャ……あなたが預かったキカイを」

「あっと……ちょっと待ってくれよ。今出すから」



 スパーシャは自分に話が回ってくると思っていなかったように焦る。サイエに施された金庫を開けて、中から記憶するキカイを取り出してレモゥに手渡す。



「このキカイは、実は魔法によるじょうがあります。あなたの時代の王が、それを作りました。それを、今から解きましょう」



 そう言うと、レモゥは金属板を掌の上に乗せ、詠唱を始めた。

 少しの詠唱の後、何かがはじけるような音がして、辺りは再び静寂に包まれる。



「――で?」

「お待ちください」

「せっかちなのよ、スパーシャは」

「いやいや、今のだと期待――」



 コズに呆れられたスパーシャが、その言葉に噛み付こうとした矢先にそれは起きた。

 記憶するキカイが発光し、ある一辺の壁に文字が照射される。



「これは――何かの使用方法?」



 壁面に映る文字を見て、レファが呟く。



「はい。ここには、ある魔法の道具の使い方が乗っています」

「もったいぶるなよ」

「続けてください」

「一つはこの部屋に安置された『魂の揺り籠』、もう一つはレファ、あなたが首からさげている『記憶のペンダント』です」

「これ……ですか?」



 レファはペンダントに触れる。彼の脳裏にふわりと故郷の街並みが映った。

 旅立ちの折に、王より託された青い宝石のペンダント。



「この部屋の中には、魂の揺り籠と呼ぶべき、最後の王とその魔術師たちが魔法をほどこした遺物が存在します。それらは云わば、魂の保管庫のようなもので、王が言うにはこの国の人間と動物たちの魂がほぼすべてここに込められていると――」

「ちょっとまって、前の時代の王は、遺された物が何かわからないって言ってたけど……」

「……すみません、それは王たちなりの気遣いです。あなたたちに不要な気負いをさせぬようにと、私が案内することも含めて」

「正直、隠された方が気になっちまったぜ」

「申し訳ありません」

「いや、レモゥさんが決めたことではないから。それよりも、続けましょう」

「はい。そして、その遺物を発動するための鍵となる物があなたのそのペンダントです。レファ、あなたは何度かそのペンダントに触れていましたが、何を思い起こしましたか?」



 レファはその問いかけに、はっとする。



「故郷の……国の街並みを思い出しました」

「そうです。その中には、あなたが旅立ったかつての国の姿が記憶されています」

「つまり――その二つをちゃんと使えば、人も国も全部元通りって事?」

「私は、そう聞いております」

「おいおい、案外あっさりだな?」



 少しの喜びを口にするコズとスパーシャを前に、レモゥは説明を続ける。



「ですが、それだけではこの瘴気に満ちてしまった世界で人は暮らしていけません。そこで、一時的にですが私の預かった『魔術結界炉』が結界を張ります」



 レモゥは懐からそれを取り出した。曰く、数日単位ではあるがこの国全体を守るに足る巨大な結界を張る事を可能にする魔法道具。

 

 

「なんだ、全部揃ってんじゃねぇか。じゃあ、山場はさっきの巨人さんで終わりかい?」

「いや……それには問題がある」



 嬉しそうに笑うスパーシャと対照的に、レファが静かに問題を提起する。

 


「それだけの規模の魔法の道具を一度に三つも……誰が起動するんでしょうか」

「私がやります」

「いや、例え貴女が魔法にどれだけ長けていても、それだけの魔力を抽出するのは一度には――」



 首を振って否定するレファを、レモゥはゆっくりと手で制した。



「可能です、私の命を以てすれば。私は、私の命を魔力へと変換し、すべての魔法道具を起動するためにここに参りました」

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