第35話 その足で

「あー、やっと出てきたかお前。おっせぇなぁ」

「待たせて、ごめん」



 スパーシャは口では憎まれ口を叩きながらも、立ち直ったレファの顔を見て大いに喜んだ。

 謁見の間での王の前、四人が立ち並ぶ。



「王、もう一度話を整理させてください」

「いくらでも」

「僕は、僕の時代……国が滅亡する直前の時代から旅をしてきた人間。そうですね」

「ああ」



 レファは順を追って確認を進めていく。



「各時代の王たちは記憶を共有し、そうすることで僕の旅を助けてきてくれていた。各時代を繋いだ、あの無機質な草原の一本道も、様々な時代の王と、それに仕える少しの魔術師の人たちが作ってくれた道」

「いかにも。そして、我らもその道を繋げる時を待っていた」

「レファ以外で、その道に大勢で向かうみたいなことはできなかったのか?」

「スパーシャ。そんなことして大勢の人が色んな時代にいったら、それこそ大混乱でしょ。滅亡を救うどころじゃないよ」

「ああ、そっか。変な事考えるやつがいたら大変だな」



 スパーシャは、「思いつかなかった」と肩をすくめる。



「そして、その最果てにある国は」

「この次に在る」



 王は頷く。



「時代としては、そなたの時代が最後の時代だ。だが、そなたの時代は既にそなたを送り出すという役目を終え、そなたの時間で言えば恐らく眠りについているだろう」

「それは――」

「もし、そなたがかの時代にとどまっていたのなら、既にそこにはいないという意味だ」

「はい」



 レファは重く頷く。故郷を思い出す。自分の暮らしたあの大きな町が、城が、国が、滅亡が目の前に迫っていたことなど知りもしなかった。そして、それは国民全員がそうだっただろう。それほどに、滅亡は唐突に訪れたのだろう。レファは雑念を振り払うように頭を振った。



「しかし、そなたの時代の王はそなたが去った後、ひとつの仕掛けを講じた。それは記憶が途切れてしまっている故儂にも正しくはわからぬが、そなたはそれを探すが務めだと儂たちは考えておる」



 レファは強く心に残した。自らの時代の王が遺したを探す。



「僕は、まだ正直実感はわかないけれど――それでも、進みます」



 レファは前を見て頷く。



「それでよい。……レファよ、重い任を負わせてしまい」

「いえ」



 レファは王の言葉を遮る。



「この先に進むことは、僕が選択した、僕の任です。なので、お気になさらないでください」

「承知した」



 レファは前を向いて、ハッキリと言う。コズとスパーシャはその様子を見て、小さく笑い合った。



「そうであれば向かうとよい。旅路の支度はできている」

「はい、お達者で」



 レファは深く頭を下げて、謁見の間を後にする。その背に、コズとスパーシャ、レモゥが続く。

 



「最後の旅立ちだ」

「おいおい、縁起でもないこと言うなよ、爺さん」

「失敬」

「まぁ、彼らが繋いでくれるかどうかは、きっとすぐにでもわかるさ」

「記憶がひらけぬ時は、それまでの事よ。元より私たちは、そちらの時間ではとうに過去の人物だ」

「それを言ってしまえばおしまいじゃあねぇか。ま、人間が滅ぶってのはヤだしよ。せいぜい祈ろうぜ」

「大丈夫、彼らなら全うしてくれるさ」

「……レファよ、幸運を祈る」

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