第32話 スパーシャの決意

 スパーシャは考えた。冗談じゃない、と。

 彼の目的はひとえにその青空と世界の広さを親友であるサイエに伝えることだった。王から託された記憶するキカイなど、例えサイエが作った物であろうとも彼にとっては二の次に扱う物だった。

 謁見の間から一人、客室に戻ったスパーシャはベッドに大きく寝転がってしばらく考えた後、翌日には荷物をまとめて部屋を後にした。

 


 城の外に出ると、雪は止んでいた。彼はこの国に来た道を戻る。

 誰かが雪かきをした道を行き、それすらも消えた先も進んだ。門番は、旅人の彼らを通してくれた時と同じように――一人であることに多少の疑問はもったようだが――すんなりとスパーシャを通してくれた。

 尚もスパーシャは歩いた。歩いて、歩いた先には――何もなかった。

 自分たちの来たはず緑の草原の道はなく、ただ雪の大地が続いて、代わりに遠目に黒い海が見えた。

 スパーシャは奥歯を噛み締めて、そして引き返した。

 


 スパーシャはこの国の王の言葉を信じざるを得なかった。そして、それと同時に怒りがこみあげてくる。

 自分にこの事を知らせなかったキカイの国の王に腹が立った。帰れないと肌で感じ、急に寂しくなった。

 引き返して客室に戻った後、スパーシャは丸一日、何もせずにただ部屋の中で考える。

 


 スパーシャは自暴自棄じぼうじきになるのはもう御免だった。彼は考える。しかし、この国の先や、自分の役目とやらについては考えないことにした。

 もっと単純に、自分がどうするべきかを、自分の意志に沿って考える。

 スパーシャは自らの腹部を見た。そこには、サイエが急ごしらえで作った金庫が付いている。

 


 スパーシャは考える。もう、後に引けないことはその目で確かめてきた。

 だったら、憤っている場合ではないと、スパーシャは自らを奮い立たせる。

 しかし、それはあくまで自分の意志だとスパーシャは己に言い聞かせた。自分の旅はどこまでも自分の為であるべきだとスパーシャは心に決める。

 


「よし」



 そうと決めると、スパーシャは立ち上がった。暖炉の火は消えており、冷えたキカイの身体はいつもよりも鈍い気がしたが、それを無理矢理に動かして彼は謁見の間へ向かった。



「やい、王様」

「ふむ」

「俺の国の王に伝えろ。俺はサイエに、青空を見せてやるってな」



 スパーシャは啖呵を切ると、少しすっきりした顔をして大股でその場を後にする。

 あくまで、自分とサイエの為に彼は前に進む決意をした。後戻りはしない、停滞もしない。もうヤケになるのはこりごりだ、と彼は胸の中で思った。

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