第31話 コズという村娘

「わたしは……わたしは何なんでしょうか」



 一人残されたコズは、真剣なお面持ちで目の前の二人を見た。

 レファには運命と最果てに至る役目が、スパーシャにはキカイの国からの未来に託す力を運ぶ役目が、それぞれにあると語られた。ならば、自分は何か決められた役どころが存在するのだろうか。コズは恐れながらも口を開く。



「そなたに関しては、実はわからぬのだ」



 王は静かに首を横に振った。



「そなたの国の王は、そなたをただ送り出しただけにすぎなかった。儂らは、そなたという存在が一体何かに関りがあるのか、また何もなき平凡な村娘であるのかがわからんのだ」



 コズはその答えに、少し肩透かしをくらった気分になったと同時に、安堵した。



「でも」

「ああ、そなたは彼らの傍にいるべきだ」

「はい、そうします」



 コズはきびすを返してレファを追った。自らを狭い国の中から連れ出してくれるきっかけになった、少年の元へ走った。




***




「レファ」

「ああ、コズ」



 レファは、自室で暖炉の火を眺めていた。コズには、その姿がいつもよりもどこかやつれて見えた。

 

 

「コズ、僕はわからなくなってしまった」

「え?」

「僕は、前の国……本当は時代か。レリアさんと剣を合わせて、自分を信じる事を胸に刻んだんだ。そうすれば迷わないって」



 レファはコズを見ることなく続けた。



「でも、今わからないんだ。信じるべき僕って一体どこだ? 僕の旅は決まっていた? だったら僕の意思はどこにある? 僕は本当に僕なのか?」

「レファ」



 混乱の様相を呈すレファに、コズは静かに歩み寄ってその肩に手を置いた。

 暖炉の火がかなり弱まっている。



「純粋に、受け取りすぎなのよ。レファはレファ。もしかしたら旅をすることは決まっていたかもしれないけど、そこで何かを感じて、何かを話したのはレファ自身でしょう」

「……そうだね、ごめん。取り乱した」

「いいの。わたしも、びっくりっていう言葉で表せないくらい……正直、全然信じられてないから」

「僕も……多分、スパーシャも」



 コズは暖炉の傍にあった薪を、その中に放り投げた。ゆっくりと、火が燃え移っていく。茶色の樹皮がめくれあがって、白い灰になっていく。



「ねぇ、レファ……どうする?」

「どうするって……」

「多分だけど、この時代はもう、この時代として確立してる。だから、ここでいくら過ごしても――」

「いや、わかってるんだ。進まなければいけないことは。それが望まれている事は」

「ううん、それはわかってない。それは、今までと違って、あなたが望んでいる事じゃない。わたしは思うよ、きっと、この先に進むときは、王たちがそれを望んでいるからじゃなくて、レファがそれを望んだ時じゃないといけないって」

「……そうかも、ね」



 レファの返答は弱々しかった。コズはもう一つ薪をくべて、レファの肩に毛布を掛けてその部屋を後にした。

 



 

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