4章

第29話 四番目の国

 四番目にレファが訪れた国は、一面が白く、無情に雪が降り続ける冬の世界だった。

 一行は例によって国の王に会い、そして提供された客室の暖炉の前に集まっていた。

 室内はまだ温かい。借りた毛布を思い思いに体にかけ、だいだい色に揺らめく炎を見つめる。



「この国は、大冷害が起きた後の国です」



 静かに、レモゥが口を開いた。

 暖炉の中で、薪がぜる音がする。レモゥは暖炉の中の灰を火かき棒でそっとかき寄せながら語る。



「この国は魔法で栄えていましたが、黒い海のせいでどうあっても大きくならない領土と増える人間の前にとうとう人間同士の争いが起きてしまいました。それは既に起こってしまった事であり、変えることは許されません」


 レモゥは淡々と語る。


「それから少し遅れて、追い打ちをするように大冷害がやってきました。徐々に気温は下がり、作物は育たず、故に家畜の餌も減り、人間の備蓄も目減りしました。そうして備蓄が減ると、人間同士の争いはより苛烈かれつになりました」



 大体の灰をかき終えると、レモゥは火かき棒を暖炉の傍に立てかけた。



「そうして、争いが終わる頃には国は雪で覆われ、文化と国力の大半は失われてしまいました」

「それは――この国の話、ですよね?」



 目を伏せるレモゥに、レファは訊ねる。

 レモゥは頷き、そしてから首を横に振った。

 レファは頭を抱える。しかし、混乱をするにはまだ早かった。まだ確たる話や証拠をレファ自身が持っているわけではない。



「休憩をしたら、改めて王に会いましょう。今はとりあえず、旅の疲れを癒すのです」



 レモゥはそう言うと、席を立って自らが当てられた部屋へと戻っていく。



「なぁ、俺はよう。旅に出てそんなに日も経ってねぇけど、なんだかとんでもねぇことに首を突っ込んだ気がするぜ」



 スパーシャはそう言うと、がしゃりとキカイの身体を鳴らしながら立ち上がる。

 その背中は、今は何も考えたくはないという風に二人には見えた。



「ねぇレファ」

「ああ」

「わたしや、レファは外の世界が見たくて旅をしてたんだよね」

「僕も、そう思ってた。王の命令ありきとはいえ、これはそういう世界を知る旅なんだって。でも――」



 静かに暖炉の炎が揺れる。



「わたしたちが見ているのは、本当になの?」

「それを、明日ハッキリさせよう」



 レファはあえて気丈に振舞い、立ち上がった。その手はわずかに震えていた。



「今はとにかく、皆休もう。コズも」

「……うん」



 コズは浮かない顔ながらも静かに頷いた。

 外は、止まない雪が降り続けていた。

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