第28話 向かう先

 気前の良い女王に見送られ、一行は新たにレモゥを迎え入れて旅路についた。

 中央の塔からは、レモゥの道案内で街を抜けていく。



「私の使命は、最果てにある国にこの魔術結界炉まじゅつけっかいろを持っていく事にあります」



 出発前、改めて謁見の間にてレモゥの旅の目的が三人の前に明かされる。

 それは三人の中にはなかった、明確に自らがやることを抱えた上で最果てにある国に向かう行為だった。

 レファとコズは、これに関して他国の事には不干渉ということも踏まえて立ち入ることはなかった。しかし、スパーシャだけはそれを抑えることはできなかった。スパーシャがそれを口にしたのは、その国を出てを潜った後だった。



「なぁ、レモゥ……さん。俺はなんだか胸騒ぎがするんだ」



 スパーシャの言葉に一行は足を止めた。



「あんた、知ってんだろ。何か」

「…………」

「いや、無理に聞くわけじゃねぇ。多分、聞いてもどうにもなんねぇから、話さないんだと思ってる」

「どうしたの、スパーシャ」

「俺は――見たんだ、今の国で。キカイを」

「キカイ……?」



 スパーシャの言葉に、レファは訝し気に言葉を返す。



「ああ。つっても動いてるやつじゃねぇ。もう何十年も、いや、あるいは何百年も前に活動を止めちまったキカイ達の、残骸だ」



 スパーシャは路地裏に積もった鉄くずを思い起こす。



「俺はわかるんだ。サイエの近くでキカイ達を見ていたから。あれは、あれは――俺たちの国で作られたキカイだ。でもそうだとしたら、俺が知ってる歴史に時間が合わない。俺たちの国がああやって大きくキカイで発展したのはせいぜい百年ちょっとだって聞いてる。万が一、過去に物流でも戦争でもしてても、あんなになった化石みたいなキカイなんて存在するわけねぇんだ」

「…………」

「なぁ、レモゥさん。あんた、多分知ってるんだよな。これ、普通の旅じゃないよな。なんで、俺たちの国はどこもかしこも、外へ出ることを禁止されてるのに、俺達だけは外を歩くのを許されてるんだ? なぁ、ここはどこだ?」



 スパーシャは大きく腕を広げて、あたりを見渡した。草原に繋がる一本の道。それはレファにとっては四回目、コズにとっては三回目、スパーシャにとっては二回目に見る、全く同じ一本の道。空に太陽は昇り、時間が進んでいるようには見えるが、生物はおらず、どこか殺風景な道。



「スパーシャ」

「レファ」

「一旦、落ち着こう……レモゥさん」



 レファはゆっくりとレモゥを見た。レモゥの長い、綺麗な黒い髪の毛が小さく揺れる。



「次の国で、話します。今はまず、進んでください」



 レモゥは静かに言う。



「進むたってさぁ!」

「スパーシャ。やめて、進むしかないのは、その通りなの」



 いきり立つスパーシャをコズがたしなめる。



「レモゥさん……正直僕は、何が何だかわかっていません。今、スパーシャが何に憤っているのかさえも。僕には、知らないことが多すぎます――」

「……あなたの旅の目的を、私は知っています。あなたの王が、あなたに伝えた使命の重さを、私は知っています」



 レモゥはゆっくりと、レファの言葉をさえぎってそう言葉にした。

 それから、やはり数日の後、彼らは次の国に辿り着いた。

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