第26話 その眺め

 コズは飽きることなく塔内を探索した。

 毎日食堂に通って別の食事を楽しみ、浴場に行っては最低一時間は入浴を楽しんだ。

 塔内部の書庫を見つけ、そのあまりの蔵書の多さに目をくらませながらも様々な本を掴んでは広げて、その文字の多さに圧倒されて元の場所へと戻した。

 スパーシャは外をきままに歩いているし、レファはずっと鍛錬をしている。コズとしても槍術そうじゅつに磨きをかけることは考えたが、それよりも目の前に広がる興味を奪う景色の方に彼女の意識は向かっていた。旅が終わって国に帰る時、少しでも多く子供たちに話をしたいと考えた。

 

 その日、コズは中央の塔をできるだけ高く昇ってみようと試みた。

 客人が立ち入ることのできるギリギリの階層まで足を踏み入れ、その展望台の役目を担ったバルコニーに身を躍らせた。



「んんぅぅ~~」



 コズは大空の風を全身に受けて、気持ちよく身体を伸ばす。その風はキカイの国で受けた風よりも幾分かひんやりとしていて、吸い込んだ空気はコズの身体を浄化してくれるような感覚を味わせた。

 コズは欄干らんかんに手をついて、身を乗り出すようにして国を一望する。中央のを中心に広がる街、そして遠くの農耕地帯、山、湖。



「んん?」



 眺めているうちに、コズはある一種の既視感のような物を感じた。だが、その既視感の出所が何なのかわからず、コズはもう一度国を見渡す。

 塔の下に広がる街、そしてその先の農耕地帯となる平野、山……湖……。



「ま、いっか」



 結局、コズは考えることを諦めた。

 

 その山と、湖の立地が、彼女の国と殆ど同じであることに気付くには、彼女は自身の国を鳥瞰ちょうかんする機会が余りにもなかった。

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