第22話 政

「闇……?」



 と、コズは要領を得ない顔で聞き返した。



「はい。二つの派閥の間、その理念とは全く異なる所でうごめく者共のがいるようなのです」



 レモゥは酷く疲れた顔をして、そう話した。



「各党派の上には、勿論政まつりごとの長達がいます。それがどうやら、理由はわかりませんがそれぞれの派閥をたきつけて、争いを起こそうとしているらしく――」

「それは……! 黒い海なんて、人同士の争いの問題じゃないのに?」

「ええ」



 コズは憤った声を発し、思わず自らの服を掴んだ。



「えー、それは何がしたいんだ?」



 全く見当がつかないという風に、スパーシャが問う。



「そうすることで要人ようじんが得をする何かがある――という事でしょうか」

「恐らくは……兼ねてより、魔法にて発展してきたわが国ではありますが、限りある領土と共に食料の問題や富、住居などの問題を常に抱えています」

「なるほど……」



 レファは頷く。



「ようは、意図的に紛争を起こして人を減らし、力をもっと自分たちに集めたいという事でしょうか」

「おいおい、そりゃあとんでもねぇクソ野郎じゃねぇか」



 レファの要約に、スパーシャはキカイと生身の両手を合わせて、俺が殴り倒してやるとでも言うように打ち鳴らした。



「そうは信じたくはありませんが、どうもそのようです。先ほどの、我が子からの報告でもまた少しそう思われる痕跡痕跡を掴みかけているとの事です」

「だったら、その要人って人たちを懲らしめてしまえばいいんじゃないの」

「そうはいかないんだよ、コズ。もっと確固たる証拠か何かがないと、憶測では人は捕まえられない。でないと、国家は崩壊してしまう」

「うぅーん……それってなんだか、すっごく嫌な気分」

「俺もやだな」



 不機嫌をあらわにするコズとスパーシャにレファは頷いた。



「もし、僕たちにできることがあればお伝えください。あまり他国の事情に首を突っ込むことはしないほうが良いかもしれませんが……お聞きしている限り、知らないフリと言うのも心苦しいです。幸い、僕たちは旅人の身。要人たちに顔は知られていませんでしょうし、信頼面に関しては、王からのお墨付きがあると思いますから」

「そのお言葉に感謝します。そのお気持ちで十分です。私も、手は尽くしました。夫や子らも尽力してくれています。もう一歩のところまで来ているのです。ですから、私も旅にご同行させて頂く決心がついております。ご安心下さい」



 レモゥは暗い雰囲気を取り払うようにゆっくりと、それでいて力強く首を横に振った。



「お見苦しい所をお見せしました。後は、ゆっくりと英気を養って下さい。係を呼びつけて、お部屋へ案内させます」



 そうしてレモゥは席を立った。あるいは、これ以上話を続けるべきではないという判断の元かもしれない。



「どうする?」

「どうするっていっても、僕たちにやれることはない、と思う。特に下手を打つと、大事に発展しかねない」

「んー、イライラするぜぇぇぇ」

「まぁ、僕たちは僕たちの事をやるしかない。レモゥさんだって、手助けが欲しいと思って話したわけじゃないと思う。最後にああも言ってたし、きっと心配の必要が殆どないから僕たちに話してくれたんだよ



 暫くして、三人は使用人に部屋を案内された。

 

 

 

***




 翌日、たまの別行動をとることになり、レファは剣を持って訓練場におもむいた。

 旅の途中、鍛錬を欠かした日々はなかった。だが、それでも実戦経験の少なさからレファを襲う慢性的な不安は拭われる事はなかった。

 かつて、子供たちを救う時に犯した勝機の見誤り、コズとの手合わせでの油断。そのどれもがレファの心に深く事実として突き刺さっていた。しかし、だからこそレファは鍛錬を緩めなかった。剣を振り、仮想の敵を前にイメージトレーニングをした。

 レファは剣を振るった。それで、自らが強くなると信じて訓練場で汗を流した。



「おや、先客がいたか」

「……あなたは」

「失敬。ぼくはレリア……レモゥの息子だ」



 その青年は、執務室に入用で飛び込んできた時よりも幾分か柔らかい印象を受けた。

 訓練衣を纏い、木で出来た訓練用を見て取れる剣を手に提げている。



「僕は、レファです」

「ああ、レファ。邪魔をしてすまない。剣の訓練場に人がいることは珍しいものだから、つい……隣いいかい?」

「ええ、勿論です。と、いうより、対人戦闘の訓練であればよろしければ一緒にやりましょうか」

「いいのかい。いや、是非それはお願いしたい。生憎と言って殆ど経験がなくてね。早速準備運動に取り掛かろう」



 レファの提案に、レリアは子供のように目を輝かせると素早く身体の筋を伸ばし始めた。



「僕は、一応護衛のようなものをしていてね。本当は対人訓練をしたほうがいいんだけど、何分剣を扱える人が少なくて。助かるよ」



 ひとしきり準備運動を終えると、レリアは素振りをしながらレファの横に立った。



「もう少しだけ剣を振らせてほしい。そうしたら、是非手合わせ願うよ」



 レリアはそう言って、好意的な笑顔を見せた。

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