3章

第19話 三番目の国

「こちらも無事だよ」

「そうか、コズは元気だったか。それはよかった」

「後は私達にできることは、信じて待つのみだ」



もっとも、やがて生まれ来る君を、まず私は待っているのだが」




***



「おいおい、外ってのは思ってた数倍退屈だなぁ」

「わたしもそれは同感かなー」



 キカイの国から伸びる一本道をひたすら歩き、ことある毎に二人はぶつくさと文句を口にしていた。

 一向に変わらない景色、一本の道と草原。両脇の森。



「言ってる間に次の国が見えてくるって」

「ほんとかよ……空もさぁ、こう、確かに青いんだけどなんていうか」

「生気がない」

「それ、それなんだよなぁ」

「うん……それはまぁ、僕も思ってるけど」



 スパーシャは退屈そうに、頭の後ろで腕を組みながらあくびをした。

 変わらない景色。レファにとっては三度目の一本道。



「それでも、進むしかないよ」

「まぁ、そうよね」



 レファはこれまでの経験と、王の言葉を信じた。道は曲がりくねることなく、次の国へと繋がっている。

 断続的に文句を垂れる二人をなだめながら、レファは前へと歩いた。

 そうして、三番目の国の入り口に辿り着いたのは、二番目の国を出てから何度か太陽が昇ったその日だった。



「やぁ、いらっしゃい。君たちが世にも珍しい……いや、初めての旅人かい?」

「はい、レファと申します。こちらはコズとスパーシャです」

「うむ。達しの通りだ。あぁ、焦らないで。そこの結界に触れると焼けてしまうよ」



 話途中に前に進もうとしたスパーシャを、門番は声で制した。

 レファは少しだけ感じ取っていた。ここには、魔力の流れがある。



「ほら、これで良し、だ。通ってよろしい。歓迎するよ、旅人諸君。我が国へようこそ」



 門番はあやしく笑った。目深に被られた帽子のせいで、その表情は読み取れない。

 徐々に開いていく門を、三人は用心深くくぐり抜け、そして見渡した。広がる街……それはコズの住んでいた村よりも圧倒的に広く、スパーシャの暮らした国よりも理路整然りろせいぜんとした街並みであり、二人は珍しい物を見るように目を輝かせたと同時に、レファには一瞬自国へ帰って来たかのような錯覚を覚えさせた。

 だが、その錯覚はすぐに消え去ることになる。



「人が、飛んでる……」



 レファは息を飲んだ。そこかしこで感じられる魔力の気配。空を飛び回る人々。



「魔法……の国?」



 コズが首を傾げる。



「魔法って、レファが使える変なやつか」

「変じゃないけど――いや、僕の使う初等の魔法なんて目じゃないよ。僕の国では、空を飛べる人なんて本当にごくごく一部だった」



 三人は入り口で立ち尽くした。よもや想像すらしていなかった町が眼前に広がっている。渡り歩いてきた国々はそれぞれの特色を持っていたが、レファ達の前に現れた国は改めて彼らの常識を超える様相を呈していた。



「ん、なんだこいつ」



 と、スパーシャが眼前にある銅像のような物に気が付いた。



「ああ、それはね。昔の名残だよ。先史文明……ってやつかな。いや、そこまで古くないか?」



 帽子を目深に被った門番は、まだ動こうとしない三人を見ながら、楽しそうに語った。

 レファは銅像を見る。銅像は倒れないようにするためか、足元を四角く固められて地面に埋められていた。人のような形をしたそれは、顔と思しき部分に点のような丸い目が、微かに見て取れたが、こびりついた苔や泥が多すぎてよくわからない状態になっていた。



「誰か掃除してあげればいいのにね」

「それは、そのままそこに残しておくのが美徳なのさ」



 コズが呟いた言葉に、門番は愉快そうに笑った。



「さて、そろそろ進めばいい。中央の塔に向かえば、王がいる。君たちは王に会いに来たんだろう? そう達しが出てたからね」



 門番は「行った行った」と言うように、手で払いのける仕草をした。

 三人は再びゆっくりと歩き始める。初めて見る街並みを――魔法が支配する国の街並みを眺めながら中央の塔へと向かう。

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