第12話 早口な少年
「キカイ、ですか」
「そう、キカイ」
レファは簡潔に、聞き覚えの無いその言葉を聞き返した。
「キカイと一概に言っても、君たちを案内したのはキカイ人形であってキカイ達の一部だ。例えば……例えば、先ほど君たちが乗って来たであろう上や下に行くためのものもキカイ。昇降機……うん、昇降機だな。まぁ、つまりだね、命令さえしてしまえば自動で色々な事をやってくれるものがキカイ、というのだよ。いやぁ、便利、便利だね。そして何を隠そう、キカイの発展に貢献してきたのがボクというわけ」
早口に
「サイエ。客人が困惑している」
「王! おお、おお、これは失敬。困らせるつもりはなかった。何分ヒトと話すのは楽しくて、楽しくて。いや、今はボクだけが話していたな。反省しないといけない。反省。うん、うん」
「すまない、サイエはキカイについては天才なんだが。改めて歓迎しよう、レファとコズ。私がこの国の王だ」
「お初にお目にかかります、王」
「えーっと、はじめまして……」
王と名乗り出た長身の男性に、レファは
「まぁ、長旅で疲れただろう。部屋は用意してあるから、ゆっくりとまずは休むといい」
「お心遣い、感謝します。ではお言葉に甘えさせていただきます」
話辛そうにしているコズを見やって、レファは少し早めにこの場を切り上げることにした。長旅で疲れているのも事実。今が夜ということもあり、王の提案に乗って一度日を
「部屋まではボクが案内するよ。折角だから、ちょっとでも喋りたいしね」
「よろしくお願いします」
「あぁ、あぁ。そういえば、そんなに固くならなくていいよ。ボクは君たちより五年も生まれるのが遅い。キカイについて偉いのはボクかもしれないが、まぁそれは置いておいて仲良くしよう、うん」
サイエが話しながら金属の塊のような物に飛び乗ると、クズ鉄のように思われたそれは四本の脚のような機関をあらわにして脚の足りない蜘蛛のような挙動をしながら不格好に、それでも人が歩くより早い速度でサイエを二人の隣まで運んだ。
「これ、最近のお気に入り。お気に入り。見た目が変形するところがボクの好みかな。ガシャガシャってね。擦れる金属の音がたまらないよね、たまらない」
言い終えるとサイエは気分が良さそうに高笑いをして、扉を出る。レファとコズはまたしても半ば呆気にとられながらもそれに続いて部屋を出る。
「部屋までは遠くないから安心して欲しい。うん。そうだな、とりあえずゆっくり寝て、明日は王の話を聞いたり、そうだ、町の様子も見て行くといい。うん。それがいい」
レファとコズが部屋に案内されるまで、サイエは終始一人で喋り続けていた。時々、頃合いを見計らってレファが相槌を打ってはいたが、それすら必要があったかどうかは
***
明くる日、レファとコズは改めてこの国の王と謁見をした。サイエの姿は今日は見えない。
「改めて、よく来てくれた。歓迎するよ、レファとコズ」
「恐れ入ります」
「お、恐れ入ります」
「はは、あまり畏まらないでいい。楽にしていい」
「ありがとうございます」
「ありがとっ、うございます」
レファの所作を見て、コズは真似をするように言葉を発して身体を動かした。
「君たちの事は聞いている。私としては宿と、次の旅路の支度の準備をするほどしか援助はできないが……準備が出来るまでの間、我が国の様子でも見てくるといい」
「十分すぎる程です。ありがとうございます、王」
大方の会話をレファに任せ、コズはできるだけ身体を動かさないようにして立っていた。話が終わり、謁見の間を後にした暫くも、どこかぎこちない所作が残っている。
「緊張しすぎだよ」
「だって、レファの雰囲気がなんか固いんだもん」
「え、僕のせいになるのか……」
とんでもない流れ弾を喰らったレファは少し落ち込む。そんなレファの様子を気にするわけでもなく、コズは機嫌を取り直して手を叩いた。
「それよりもっ、国を見て回ろうよ。ここは、レファの国ともわたしの国ともきっと大違いだわっ」
コズはくるりとその場で一回転し、走り出した。
謁見の間を出てすぐは既に外になっている。金属の板張りのだだっ広い通路をカンカンと小気味いい音を立ててコズが走っていく。空はレファや、コズ達の国で見るより少しくすんだ青色に見えたが、コズ自身は上空よりも眼下に広がる街に対しての興味が深いようだった。
「すっごー! こーんなに高い所に上ったの初めてだよ! うちの国じゃ、せいぜい木の上に上るくらいだったもの」
落下防止の鉄柵に手をかけ、国を一望する。明るくなって見える部分が増えると、歪だった街の印象はやや整っているようにも見えた。それでも、高低差が大きく、でこぼこと赤茶けた建物が立ち並ぶさまは二人にとってはあまりにも珍しい風景だった。
レファは時計塔から見える景色を思い出していた。時計塔の眼下に広がる、慣れ親しんだ自分の生まれ育った国。ここで自分が額に受けている風は、果たして自らの国をも吹いて渡ってきた風なのだろうか。レファは遠くを望む。そこには、黒い海が見える。
それは嫌な形で世界を繋げる象徴だった。レファは
「レファ?」
「ああ、ごめん」
「ううん。それよりも、中層に行ってみようよ。人がいっぱいいるんでしょ。わたし、楽しみだな」
「そうだね、行ってみよう」
無邪気に笑うコズに、レファは少し救われた気がした。軽やかな足取りで金属の道を打ち鳴らすコズの後ろを、レファは少し早足になって追いかけた。
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