長い、長いトンネルの中

伊賀鉄

第1話

 私は今、先の見えない長いトンネルの中にいます。いったいどの辺りにいるのでしょうか?

 私はもうじき人生の半世紀目を迎えようとしています。最近よく考えるのです、自分の人生はいったいなんだったのだろうかと。そして、生きる意味はなんなのかと。


 私は亡き父がそう今の私と同じ歳に、私を授けました。亡き母はその10歳後年です。兄がいたそうですが、私が産まれたときにはもう他界していました。黄疸が酷かったようです。

 その頃、まだ商店が通りに軒を並べていて、我が家も類に漏れず荒物業を営んでいました。いわゆる雑貨屋さんです。今新型コロナウイルスが世間を騒がせていますが、中東情勢の煽りを喰ったオイルショックのとき(1973年)、今の若い人たちはわからないと思いますが、こんな小さな商店にも落とし紙を買い求める人が溢れました。落とし紙はトイレットペーパーみたいなもので、当時まだ俗に言うぼっとん便所が多かった時代、便器の中(肥溜め)に落として使うのでこう呼ばれました。店の片隅にあった埃で汚れたものも売れていったといいます。


 私が小学校に入る前の頃、母親と買い物に行く途中の道すがら、母親から「あんたは、吃るからもっとゆっくり話しなさい」と言われました。私は発語が遅く、言葉が出た途端タタタッと話だしたと言います。自分が話すスピードについて行けず、吃ってしまう、そのような感じだったそうです。以後、私は吃音と歩みを共にすることになります。

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長い、長いトンネルの中 伊賀鉄 @igatetsu

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