第三十二話:幼馴染にさせないで
「
放課後。
なんだか急に寒くなってきた気がして鼻をすすっていると、やけに
「どうした……?」
おれの問いかけには小さなうなずきだけが返ってきた。
小佐田は
「大きな方向転換が必要かも知れないんだよ」
と、
突然のシリアスムードに
そこに書かれていたタイトルは。
『徹底議論! 「幼馴染」と「
「うわあ……」
まあ、そんなことだろうとは思ってたけど……。
どちらかというと研究編の方が気が重いんだよなあ。
「わたし、ずっと須賀くんと『幼馴染』の研究をしてきたでしょ? でも、もしかしたら『
「なんでいきなり
分かってる。質問すべきはそこじゃないし、いつもおれは質問すべきじゃないところにばかり質問している。
でも、この狂いっぷりを前にすると、一番手近な疑問にとりあえずツッコむくらいしか頭が働かないのである。それに今日はなんだか、いつも以上に頭が働かない。頭が働かないって2回言っちゃうくらい頭が働かない。あ、3回目……。
「親同士が仲良しだって聞いて、
「立ってねえよ、ていうか仲良しとまでは言ってない」
おれが言ったのは『最近もたまに連絡をとってるらしい』というくらいだ。
「あ、というか、前提として先に確認しておくね? 須賀くん、
「いないけど……」
答えると、小佐田はほっと胸をなでおろす
「よかった……。
「
「それで、だよ」
おれの真っ当なツッコミを無視して、引き続き真面目な顔で、彼女は改めておれに問いかけてくる。
「
「知らねえよ……」
「そうだよね、まだわからないよね。じゃあ、整理していこうか」
小佐田は『大丈夫、わかってるから』という顔でうなずいて、
「やっぱり、大きな違いはその『強制力』だと思うんだよ」
と、人差し指を立てた。
「
「下位互換」
「
「醍醐味」
「その点、幼馴染ものも同じアプローチのことあるけどさ、その子達が『なんであんたなんかと幼馴染なのよ!』『おれだってもっと
「前述、ツンデレが効力」
小佐田の文章の単語だけを切り取って反復するマシーンになっていると、
「須賀くん……だいじょぶ?」
と声をかけられる。
「え、何が?」
「ううん、なんだか、いつもよりもぼーっとしてる感じがするから」
「いつもぼーっとしてねえよ……。それで、結論は?
「ほぇ? ああ、うん、それなんだけど……」
コホン、と咳払いをして、小佐田は言う。
「やっぱり、幼馴染の方がよくないかな?」
「はあ?」
今までの話なんだったんだ、
「ちゃんと説明するねっ。『強制力』についてなんだけど、やっぱりわたし、お互いに好き合って結婚しないと意味ないと思うんだよね。だから、そんな強制力そもそもいらないっていうか、振り向かせてみせるっていうその意気込みこそが幼馴染っていうか。
「予定調和」
「それにねっ、親が決めた
「エモエモでキュンキュン」
「『
セリフが説明くさすぎるし、やけに失礼だな……。
「『おれ、気づいたんだ、おれには菜摘しかいないって! だから、こんな結婚認められない!』蓮くんが叫ぶよね。わたしは答えるんだ、『なんでこんな
おお、菜摘、今日は正論だ……。あれ、幼馴染、やっぱり劣勢じゃない?
「『うるせえ! 行くぞ!』『もう、蓮くんの、バカ……!』わたし、大泣きだよね。愛が理屈や式にかかる費用を超えた瞬間だね」
わたし大泣きなのかよ……。その蓮くん、多分本当のバカだよ……? そしてそれについていく菜摘も
「あとね、そもそもの大前提として、さっきもいったけど、
「反目」
なんか小佐田、今日難しい言葉使うなあ……。おれが理解できてないだけか?
「でも、わたし、蓮くんと今、
「え……?」
それって……?
「ん? 須賀くん、顔が赤い……!?」
「え? ああ、え?」
ダメだ、なんだろう。視界が
「だいじょぶ……?」
小佐田がやけに真剣な顔に戻って、おれの
「やっぱり! 須賀くん、熱あるよ!?」
その声を聞きながら、ああ、やっぱそうだったか、と自覚した
とりあえず。
「幼馴染が勝ったってことが分かってよかった」
「何言ってるの!? 保健室の先生呼んでくるね!」
バタバタと写真部の部室の扉が開いて閉まる音を聞きながら、おれはそっと目を閉じた。
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