第二十六話:傘幼馴染
「ねね、
放課後。
「なんで嬉しそうなんだよ……」
おれの方は、昼休みまでせっかくいい天気だったのに帰り道が
「須賀くん、置き傘ある?」
「あるよ」
カバンを持って立ち上がり、教室後方の傘立てから黒い傘を持って
「さすが須賀くん! 分かってるねっ!」
と、笑う。
「いや、おれは何も分かってない」
置き傘を置いているのはこういう突然の雨に濡れないためであり、小佐田の
「……で、小佐田は置き傘ないのか?」
無駄な質問だとは分かっていても、一応確認だ。
「んとね、置き傘じゃないんだけど、置きカッパならあるよっ! 黄色いやつ。ほら、わたし、自転車通学だから」
「小佐田、カッパ似合いそうだな」
ぶかぶかめの黄色いカッパを羽織っている小佐田を想像すると、小学生みたいでなんとなく
「それ、褒めてくれてるの?」
「微妙なところだな。けなしてはないけど、褒めてもない」
「ふーん……?」
喜べばいいのか不満に感じればいいのかわからないのだろう。表情を決めかねたように
「じゃあ、その黄色いカッパとやらを取ってこいよ」
「ううん、置いて帰る!」
「はあ? なんで?」
次はおれが
「そんなの決まってるじゃん! 課題だよ!」
おれの
バン! と課題の書いてある
「あれ、えーと、何ページだっけ……」
と、ノートをガサゴソしている。
いやまあ、そりゃ、これだけ
「ページ見せなくていいよ。それで、今日の課題はなんだ?」
「おっ、須賀くん、やる気満々だねっ!」
「抵抗するだけ無駄だって学んだだけだよ……」
「へっ!? それも喜んでいいのかどうかわかんないなぁ……。まぁいいか。こほん! それでは発表します、今日の課題は……『幼馴染を
「うわあ……」
なんだか、久しぶりに真っ当な課題を見た気がするが、改めて、課題ってなんだよって感じだな……。
「設定はだいたいわかるよね?」
「うんまあ……。幼馴染の女の子が傘を忘れ」「女の子が
おれの回答は
「『仕方ねえな、おれの使えよ』男の子がぶっきらぼうに傘を差し出すんだ。トトロのワンシーンを
ふむ、なるほど。導入から相合傘をしようと持ちかけないのは、男子側のシャイさが表現されてて悪くないな。プラス20点。
「『いや、んなこと言ったってどうすんだよ……』『じゃ、じゃあ蓮くんがわたしを送ってってよ、わたしんち近いでしょ……?』女の子がほっぺを赤くしてちらちらと男の子のことを見上げて言うんだ。そしたらそしたら、蓮くんがもっと赤くなって、『お前それ、相合傘になっちゃうんじゃ……』って言うの! 女の子はニターっと笑って『あれれー? 蓮くんはそんなことを気にするんですかー? 幼馴染のわたしのことをそんな風に意識しちゃってるんですかー?』って返すんだよっ!」
うーん、女子のキャラが
「『ば、バカ言うなよ! 意識なんかするわけねえだろうが!』そう言いながら一歩前に出て傘を広げて
ふーん。まあここは女子にとってのかっこいいポイントだからおれには判断出来ないな。採点はパスだ。
「と、言うことで須賀くん!」
「はい」
ちょっとだけ久しぶりに声を出しました、審査員の須賀です。
「最初のシーンの、『お前、傘ないのか?』からお願いしますっ!」
「
おれは小佐田の申し出を断り、一歩前に出て屋根の外、傘を広げる。
小佐田がついてこないので、ちらりと振り返ると、大きな瞳を輝かせて明らかに何かを期待していた。
「……置いていきますよ、小佐田さん」
「んー、蓮くん、やーさしいっ!」
恥ずかしい。結局乗せられてるところも恥ずかしいし、何より照れ隠しが見破られてるところが恥ずかしい。
おれと小佐田は同じ傘の下、ゆっくりと歩き出す。
小佐田はどうやら、朝持ってきた自転車は今日は学校に置いて帰るらしい。
おれが
「ちょっと、もっとわたしの方に傘を寄せなさいよ、濡れちゃうでしょ?」
「おお、すまん……」
相合傘なんぞをする機会はほとんどないので、気遣いのできてなかった自分を恥じながら傘を少し小佐田の方に寄せる。
すると、突然小佐田が
「えっ、あっ、ごめんっ……。ちょっと強気系ツンデレ幼馴染っぽいことを言っただけだから大丈夫だよ、元に戻して? 須賀くんの肩、濡れちゃうよ?」
「うわあ……」
ややこしいことすんなよ……。
「なんだそれ……。そんなこと言われても、一回小佐田側に寄せたのを戻したらなんか嫌な感じになるだろうが」
「えぇっ!? んー、じゃあ……」
小佐田が手をぐーにしたまま自分の口元に寄せて、少し考えるような仕草をしたあと、
「んっ」
右腕にぴとっ、と感触が走る。
「これで……いい?」
「あ、え、あ、うん……まあ……」
少しうつむいて照れている小佐田の体温がわずかに伝わってきて、おれの方にもその照れみたいなものが
「ん……。じゃ、よかった」
「お、おう……」
なんとかそう答えた後は、なんとなく無言になってしまう。
傘を打つ
そして、右腕、触れ合ったところからわずかに伝わってくる熱がどうにもくすぐったい。
少しそのまま歩くが、
「お、小佐田の家はここからどれくらいだ?」
「あ、うん。……そこ、です……」
いつの間にか結構歩いていたらしい。
小佐田が恥ずかしそうに指差す先に、赤い屋根の一軒家があった。当たり前だが、表札には『小佐田』と書いてある。
「んじゃあ、ここで、いいか……?」
「あ、でも、せっかくここまで来てくれたし、もしよかったらお茶だけでも……」
「え、いや、でも、そんな、人んちにいきなり……」
「あ、あのね……」
……2人してもじもじとする
すると、その時。
「あら、なっちゃん、歩きで帰って来たの? ってあれ……?」
「お、おかあさんっ……!」
おれの
ゆっくり振り返ると、そこには若く見える女性が立っていて、おれと目が合うなり、喜びと驚きを顔いっぱいに広げた。
「まあ……もしかして、蓮ちゃん!?」
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