二、翼を失くした鳥のひと
きし、きしと雪を踏む足音が聞こえてきて、なんとなく目を上げる。
視界に飛びこんできた姿に、びっくりして息をのんだ。
驚くほど大きな人がすぐ目の前に立って、わたしを見おろしてる。わたしが小柄だから大きく見えるんじゃなく、頭の位置が軒天より上にあるんだから本当に大きい。
その人は、固まるわたしのすぐ前に身をかがめてしゃがみ込んだ。
「こんな所で何をしてるんだ?」
低く抑えられた声と、壮年といっていい顔つきの、男のひと。
翼を失った
歴史の本で読んだ、
もしかしたらこの人も、それに巻き込まれ翼を失ってしまったのかもしれない。
「寒くないのか? 動けないなら、医者に連れて行ってやるが」
答えないわたしを心配してくれた。一瞬うなずこうとして、やめる。帰らなきゃって思いが頭を通り過ぎたけど、まだ帰りたくなくて。
「大丈夫。人を、待ってるの」
「……それならいいが」
わたしの嘘を聞いた彼は困ったふうに眉を寄せ、それから自分の着ていたコートを脱いだ。それを、うずくまるわたしにそっと被せてくれて。
「早く来るといいな」
小さく笑った表情が、なんだかすごく優しくて、だから。
「うん」
わたしは泣きそうになって答える。
彼は立ちあがり、軽く会釈を残して歩きだした。
遠ざかる大きな背中にやっぱり翼はなかった。
風の民である彼らでも、翼ナシで飛ぶことはできないのだという。
低い声と穏やかな瞳を思いだすと、心が震えた。
わたしの心臓は欠陥品で、二十歳まで命を維持できないと小さい頃から言われてる。そのタイムリミットはもうすぐそこまで迫っているけど。
その時まで、わたしはあんなふうに揺るがぬ足取りで歩いていけるのかな。
雪が降ったくらいで動けなくなっちゃってるわたしが、どこかへ行くなんて――過ぎた望みだったのかもしれない。
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