家出娘と死にたがり
羽鳥(眞城白歌)
+ Freezing Moon +
一、月の凍る夜に
吐く息の白さに、自分がまだ生きてることをかろうじて感じる。
服を染みとおる夜気の冷たさに震えが止まらず、襟元に毛織のショールをかき合わせた。
人生ではじめての外出が、こんななんて。
でも、ため息を吐くと体温が逃げちゃうかもしれない。こんなに寒いなんて予想外、知っていたならもっと厚いコートを探したのに。
いま歩いている場所がどこか、わたしは全然わかってなかった。
部屋で見つけた地図のいちばん遠い場所を指定し馬車を走らせて、降りた場所がここ。行けるなら、どこでも良かった。
寒さのせいでツキツキ痛む胸を押さえ、わたしは空を見あげる。
真っ暗闇の空に、銀砂を撒いたような星の海。ナイフの先みたいに鋭利な弓月が、そのまんなかで冷たい輝きを放っていた。
生まれてはじめて外に出て、固く冷たい石の道路に立って、凍った夜風に巻かれて見あげる冬の夜空。
ふぅわりと、鼻先をかすめて白いモノが舞い降りる。
「あ」
どうしよう、雪が降ってきちゃった。
限界まで冷えきった身体が本当に動かなくなる前に、どこかへ行かないと。
でも、どこへ。
尋ねる相手も見つけられず、わたしはさっきより強くショールをつかんで歩きだす。凍りかけの
こんな寒い夜だもの、通りを歩く人は少なく、時々すれ違う人も自分の足元に精一杯。遅い時間だからもう馬車はおしまいだし、どこの家でも固く閉ざした扉の向こうで夕飯の支度がはじまってるに違いなくって。
人生はじめての外出が家出だったりすると、こんな時どこに行けばいいかわからない。
だんだんカタマリが大きくなり、勢いを増してく雪から逃げるため、とにかく屋根のある場所を探してみる。たどり着いた大きな建物の下なら、なんとか雪をしのげそうだった。
ほとんど感覚のなくなってる足を無理やり動かし、屋根の下に逃げ込む。
螺旋を描きながら吹雪く白は幻想的で、不気味に美しくって。なんだか目が離せなかった。まるで白い闇のようで、星も月も見えなくなったのがひどく寂しい。
建物の壁に背中をつけてうずくまり、両手に息を吐きかけて温めてみる。背中越しに聞えるざわめきからすると、この建物は酒場か食堂なんだろう。
お金は持ってるけど入っていいのかわからない。
こういう場所を使ったことがないから、どうすべきかがわからない。
呼吸のたび体温を奪う冷気を防ぎたくって、肩に巻きつけていたショールを口元を覆うように引き上げる。
誰かの助けなしでは何もできない自分が、どうしようもなく哀しかった。
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