第56話 加勢

 戦闘鎌サイス両手剣ツーハンデッドソードの剣戟は続いていた。

 戦などで戦闘鎌を使う者はほぼいない。

 理由は、その大きさと重量、形状から、非常に扱いづらい上に太刀筋が読みやすい事にある。

 では、何故この様な武器が存在するのか。

 それは、過去に戦場を席巻した戦闘用馬車チャリオット、いわゆる戦車の存在だ。

 二輪で馬を2頭から4頭立ての戦闘用の馬車の存在は、その昔、平野での戦闘においては最強の名を欲しいままにしていた頃がある。

 その戦車の上で使用するのは、直槍スピアよりも戦闘鎌が重宝された。

 敵歩兵の傍を通過する時の攻撃を与える際、直槍よりも重宝されたのだ。

 しかし、戦車の時代も長くは続かなかった。

 その他の大型兵器の発達、騎兵の普及により、地形を選ぶ戦車の活躍の場がなくなっていったのである。

 その為戦闘鎌は、歩兵には扱いづらい武器であるが故、使用する者などほとんどいない。

 わざわざ使いづらく、攻撃パターンも限られ、使用者が疲弊しやすい武器など、好き好んで使う者などいない。


「なんで鎌なんか使ってんだ、お前」

「私には使い勝手がいいからよ」

「カマだからじゃないのか?」

「アンタ、絶対殺す!」


 一進一退の攻防が続いていた。

 まさか、ここまで巧みに戦闘鎌を操る者がいるとは、タイパンは思ってもいなかった。

 攻撃のほとんどは斬撃だが、その攻撃速度の速さから、なかなか攻撃に転じる事が出来ないでいた。

 インも同じだ。

 残りの失敗作達も並みの強さではない。

 仕留めようとすると、他の者が間に入る。

 そんな事の繰り返しで、決定打・致命傷が与えられない。

 圧倒的に手が足りない。

 寅が歯を食いしばった時だ。


「タイパン!寅殿!」


 ハララカの声だった。

 その声の方向を見ると、ハララカだけではなく、地上階の制圧に向かわせた部隊が続々と到着している。


「お前等!」

「タイパンと互角に戦える奴がいるとは」

「俺は良いから、寅殿を!」

「承知!」


 ハララカが双短剣ツインショートソードを抜きながら宙を舞った。

 それに続き、順次到着する蛇達も失敗作達へ向かっていく。


「寅殿!一度御下がりを!」


 振り返るとジムグリがいた。


「ジムグリ!何をしている!?」


 兵士達に囲まれながら、無理矢理一度下げされられた。


「戦えはしません。でも、援護サポートは出来ますから!」


 そう言って、ジムグリが寅の身体に手を翳す。


「お前、魔法が使えるのか」

「簡単な回復魔法と、戦闘支援バフだけですけどね」


 ジムグリはそう言うが、身体の芯が温まる感覚がある。

 筋肉疲労が和らいでいく。


「充分凄いぞ、ジムグリ」

「えへへ」

「お前は下がって、負傷した兵士達を頼む」

「しょーち!」


 寅が再び前線に立つ。

 悪くない。

 いや、むしろ良い。

 流れがこちらに向いて来ている。


「一気に押し潰す!」

「それは困る」


 耳元で声がした。

 寅は危険を感じて身体を捻る。

 風を斬る音がした。


「ルインの手下共か」

「ここを支えているのはアンタとあのデカい男だ。なら、私は先にアンタを殺す」


 暗がりから1人の屍喰鬼が現れた。


「御託はいい、来い」

「フンッ」


 この階層での戦闘は、混沌を極めていた。



 1人の男が立っていた。

 その立ち姿で誰かすぐに分かった。

 元・インのリーダーであり、現・致死軍ジースージェンの頭目、ルインだ。


「ルイン、邪魔するな」

ファンの坊ちゃんにフェイの坊ちゃん、蒼狼ツァンランはこの先だ」

「通さないつもりか?」

「いんや、用があるのはパオ、お前だけだ」

「……」


 パオは無言のままに前に出る。


「豹!」

「皆様はお先へ。ここは私が」


 俺達は頷いて前に進む。


「吠の坊ちゃん」


 すれ違う瞬間に俺を呼び止める。


「その呼び方は辞めろ」

「1つ頼まれてくれませんかねー」


 ルインから頼み事だと?

 妙な事言い出す奴だ。


「なんだ」

「あの研究者、名前は何だったかな……?」

「ルーヴか?」

「そう、そのルーヴだ。アイツを殺してくれ」

「……は?」


 何なんだ、何を言っているんだ、コイツは。


「お前達の仲間だろ」

「俺は雇われの身だ、実験にも関わっていない」

「しかし、屍喰鬼の部隊を作ったのはお前だ」

「そう言う依頼だったからだ」

「お前から提案した案だと聞いているが?」

「俺の仕事は、蒼狼の隠密として情報を収集・攪乱する事だ。その一環で部隊を作っただけだ。だが、本音としてはああいう実験は好かん。生き物ってには、自然に生まれ、自然に死んでいくべきだ。その結果、繁栄しようが絶滅しようが、それは自然の摂理、手を加えていい領域じゃない」

「いくつもの命を奪ってきた奴の言葉とは思えないな」

「いくつもの命を奪ってきた奴だから言っているんだ。俺のやって来たことは自然に反する事だ。だから、俺も生きているべきではない」

「お前……」

「最期まで聞けよ」

「……」

「別に俺は死にたがりでもないし、生にしがみ付いてるつもりもない。時が来れば死ぬ、それだけだ。だが、アイツだけはすぐにでも消すべきだ。あの実験を後世に残すべきではない」

「……、それに関しては俺も同意見だ」

「頼んだぞ」


 そう言うと、ルインは豹の方へ、ゆっくりと歩き出した。

 もう行けという意味だろう。


「最終的に、お前はどっちの味方なんだ?」

「ハハハ、下らん事を聞くなよ、坊ちゃん」


 ルインは振り返って、こう言った。


「俺は、俺の部隊の味方だ。手伝って欲しいなら契約金を持って来な」

「相変わらずだな」

「人ってのは、そう簡単には変われんよ」

「全くだな」


 俺達は最下層へ続く階段を降りるのであった。

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