第42話 深部侵入
俺が率いた精鋭100人が、脇目も振らずに実験施設へ走る。
西方司令部は突然の上将軍直々の来訪で、完全な機能不全に陥った。
町の中は騒然としている。
俺達に呼応したのか、町の人々が拳を上げて叫んでいる。
決起の前触れだ。
「
「矛先は西方司令部の支部へ向けます。上将軍閣下がどうにかしてくれるでしょう」
「頼んだ」
「御意に!」
豹が俺達の元から離れる。
それからすぐに実験施設の前に到着した。
見た目は5階建ての普通の建物。
しかし、タイパンの報告では地下3階まである大きさの施設らしい。
「
東門から突入した俺達とは別に、北門から突入した寅と50の精鋭が合流した。
西門、南門からも50ずつ兵が来る予定になっている。
「突入は俺とタイパンが先行する。お前はここに残り、付近の警戒と20分ごとに25人ずつ増援を送れ、いいな?」
「御意に!しかし、私は突入しなくてもよろしいのですか?」
「こんな町中だ、突入よりも定点防衛の方が骨が折れるぞ」
「お任せください、如何なる者にも邪魔はさせません!」
「頼んだぞ」
「主殿!」
建物の中からタイパンが現れた。
「
「分かった、行くぞ!」
先頭をタイパン、それに続いて俺とエルウィン、その後ろを兵士達が並んで付いてくる。
「中の警備状況は?」
「地上部分は蒼狼の私兵が固めてるが、地下は魔王軍残存部隊が固めてる。地下に入ったら、本格的な戦闘だと思ってくれ」
「地下への入口は?」
「少し複雑になっている。案内するから付いて来てくれ!」
建物内の廊下を全力で走る。
たまに廊下に表れる者は、即座にエルウィンの
すぐに地下へ続く階段の前に設けられた鉄格子に行き当たった。
「ここは壊すしかない」
「鍵なら私が開けるわ、少し待って」
そう言ってエルウィンが針金を2本、鍵穴に差し込む。
「全員、抜刀しておけ」
これは遭遇戦ではなく強襲だ。
既に俺達が侵入している事は相手も分かっている筈。
となれば、すぐに対応出来るようにしなければならない。
室内戦を想定した訓練も積んでいる。
そう簡単に押し返される事はないだろう。
「開くわ!」
エルウィンが開錠して、扉が開く瞬間。
「ダイル……?」
1人の
鉱矮人が口を開くと同時に、タイパンの投げた
ゴポゴポと血を吐き出しながら倒れ込む鉱矮人。
「知り合いか?」
地下への階段を駆け降りながら、タイパンに訊ねる。
「俺がここに入れるように手配してくれた、訓練の同期です」
「殺してよかったのか?」
「もとより、そのつもりでしたから」
いつもと変わらない表情のタイパン。
蛇には戦闘力の高さや狡猾さだけでなく、心の強さも必要なのだと再認識させられる。
「そんな事より急がねーと」
「その通りだ」
ここまで蒼狼に肉薄するのは初めてだ。
何としても殺さなければならない。
目的の階層に到着すると、そこは今までとは全く違う空気だった。
街中とは思えない程に張り詰め、嫌な汗が滲む。
この空気は、戦場のそれだ。
「吠様、お下がりを。露払いは我々が」
そう言って、兵士が前に出る。
俺達の動きを察知したのか、薄暗い通路の奥から黒い影がゆっくりと近付いてきた。
「魔王軍残存部隊だ」
「さて……、戦争を始めますかね!」
真っ先に動いたのはタイパンだった。
それに続き、他の兵士達も鬨の声を上げながら突貫する。
呼応するように、黒い影達も雄叫びを上げるが、動こうとしない。
奴等が手にしているのは2メートル程の
突撃する騎兵に対して槍衾を形成するがごとく、綺麗に並べられた直槍の穂先に隙など存在しなかった。
遥か昔に存在した密集陣形『ファランクス』を彷彿させるその陣形は、兵士の練度の高さを如実に示していた。
「これは……」
正直、突破は難しい。
俺がそう思った時だった。
「ここで魔術使っても怒られないわよね?」
エルウィンが不敵な笑みで言う。
手にしていた半弓を近くの兵に預け、
右手で
その2本を同時に弦に番え、小声で詠唱をしながら引き絞る。
鏃が仄かに光を放った瞬間、2本の閃光が薄暗い廊下を明るく照らした。
「な!?」
放たれた2本の閃光は味方の間をすり抜け、まるで2本の鉤爪で引っ掻いた様に、敵の陣形を切り裂いていた。
「姐さんが作ってくれた道だ!押し広げろ!!」
敵は突然の閃光に目をやられていた。
エルウィンが開いた隙間に兵士が殺到する。
こうなれば密集陣形は仇にしかならない。
ファランクスは槍の間合いで敵を処理し尽くす事に特化した陣形だ。
1列目の槍よりも短い間合いになった場合、2列目、3列目の槍が処理するのだが、それは前方に限った話。
斜め前を攻撃する事など出来ない上に、密集し過ぎている為、後列に視界など無いに等しい。
槍を捨て、剣を抜くべきだが、これまた密集し過ぎで剣すら抜けないのだ。
となれば、躯になる順番をただじっと待つだけになる。
「とにかく進め!」
混戦になると思っていたが、一瞬で片が付いてしまった。
いけるかもしれない。
俺には希望的憶測がゆっくりと上ってきていた。
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