第43話 後続待機
「サリィン、ガルはどうした?」
上将軍が馬から降りながら私に訊ねる。
「先に研究施設へ向かわれました」
「うむ、近接格闘に覚えのある精鋭を20程引き抜け。サリィン、儂と来い」
「はっ」
そう言って、
堂々と歩く私達を見る街の人々の目は何処か輝いて見える。
「もう一歩遅かったら、街の者達も蜂起していた。急いで来た甲斐があったな、サリィン」
「はい。既にガル殿の兵士に混じり、戦う者達も出てきていますが、閣下のお姿を見て少々落ち着きが戻ったようです」
民の不満は西方司令部への憎悪が根本だ。
それこそ、ヤクザ紛いな行為ばかりをやっていた西方司令部への怒りは、それを放置し続けた中央司令部、ひいては上将軍への不信感に繋がっていた。
ここで街の人々が武力蜂起していたならば、西方司令部の支部は壊滅、西部全体に飛び火し、西方司令本部すら占拠されていただろう。
そして、そのままの勢いで中央司令部へ牙を剥いていた筈だ。
そうなれば王国は崩壊、また復興に数十年を要する程に疲弊していただろう。
それを、寸前で食い止めた。
中央司令部が正義の鉄槌を以って、西方司令部を制裁してくれる。
上将軍自身が姿を見せ付ける事で、民に蜂起を失念させたのだ。
際どい賭けであったのは間違いがない。
「我々の目的は何か分かるか?サリィン」
上将軍の突然の質問に戸惑ってしまう。
「えっ……、ガル殿達の援護……、ではないのでしょうか?」
「そんなに分かりやすければ、質問する意味がないであろう?」
「では……」
「我々の第一目標は、武装した暗黒種族の死体を持ち帰る事だ。しかも、出来るだけ多くな」
つまり、こういう事だ。
私達が現在行っている行動は、物証がない状態での強制調査。
この強制調査で何かしらの証拠を掴まない限り、私達の行動は越権行為に該当し、今度は王国政府から中央司令部が捜査される立場になる。
何としても、西方司令部が魔王軍残存部隊と繋がっている事を示す証拠が必要になる。
だからこそ、魔王軍残存部隊の死体が必要なのだ。
それも、1つや2つでは足りない。
それでは西部の街に侵入した
西方司令部の目を盗んで街に侵入するには不可能程の数、部隊規模での潜伏が証明出来なければならないのだ。
「戦闘は控えた方がよろしいでしょうか?」
付いて来ていた兵士の1人が上将軍へ訊ねる。
「いや、暴れて構わん。むしろ、民の目に見える所で暴れろ。中央軍を英雄と讃えてくれるだろう」
そう言って笑って見せる上将軍だが、いつもの晴れ晴れとした笑顔ではない。
それもそうだ。
結局、今の私達がやっている事は、ガル殿達の手柄の横取りに他ならない。
本来ならば、中央軍のみでやるべき事なのだが、それでは確実に証拠を押さえる事が出来ない。
司令部内でどんなに緘口令を敷いても、中央司令部の動向が西方司令部に漏れる。
そうなると、上将軍が到着する前に証拠隠滅が完了しかねない。
だからこそ、今回のガル殿達の襲撃に合わせたのだ。
不甲斐ないという自責の念が、上将軍の笑顔を曇らせている。
「サリィン」
「はい」
「軍とは、弱いな」
「閣下、軍が弱いのではありません。もとより、人と言う存在が弱いのです」
「ハハ、機嫌が悪い様だな、サリィン」
「別に、そういう事では……」
「耐えるのも仕事だ」
そんな話をしていると、
「何者だ!」
建物の入口を、大男が率いる60名程が封鎖している。
身なりは民間人の様だが、顔つきが違う。
かなりの訓練を積んだ兵士だ。
つまり、ガル殿の部下だろう。
「儂は上将軍、加勢に参った」
「中央司令部の方々か、話は聞いています」
「中に入れてもらえるかな?」
「それは出来ません。誰も通すなと言いつけられております」
ここへ来て邪魔をする気なのか。
流石の私も、声を荒げてしまう。
「何を言うか!」
「中は危険です。上将軍閣下は御下がりください」
「貴様!」
「サリィン、辞めよ」
完全に頭に血が上った私を、上将軍が制する。
「いつもは大人しいのだがな。お主等に先を越されたのが頭に来ているらしい」
そう言って上将軍はガハハと笑う。
「閣下、あと1時間もすれば我々も中へ突入致します。それ以降でありましたら、ご随意に。我々の目的は敵を倒す事で、死体には興味がありませんので」
「ガハハ、ではその時までお主等と共に入口を固めておこう」
上将軍はドカリと座る。
「ところでお主、名は何と言う?」
「
「良い体躯をしておる。
「
「室内戦だぞ?長柄武器は不利ではないか?」
「室内戦ですので、この長さです。本来は倍近い長さを振り回します」
「ガハハ、寅とやら。ウチに来んか?今なら高給で雇うぞ?」
「お聞きした通りの御仁だ」
2人が談笑を始めたのを見て、私は溜息を吐いたのだった。
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