第41話 門前問答

「ブハハハ!見ろ!圧倒的ではないか!」

「敵の主力部隊は後退!城門に押し寄せた奴等も、弓や石で順調に処理出来ています!」

「西部の城壁を舐めるからだ!この調子で全員の息の根を止めろ!」


 投石機アクセラレータを担当してた部隊長が高らかに声を上げる。

 一方的に敵を蹂躙する快感。

 それは麻薬のように強烈であり、部隊長はその快楽に酔いしれていた。

 しかし、それもいつまでも続くものではない。

 フェイは早々に城門の前から兵士を引いたお陰で、既に投石機の射程圏内には標的がいなくなっていた。


「隊長、どうしますか?」

「なーに、そのまま奴等が隠れているのを見張っておけばいい。顔を出した瞬間に攻撃再開だ」

「はっ」


 優越感に浸りながら、部隊長はこのまま意味のない睨み合いが続くと考えていた。


「報告!」


 それはあっさりと覆された。

 町の支部から派遣された伝令だった。


「なんだ、騒々しい」

「南門、東門からの報告です!新たな軍と思わしき影を確認との事!」

「フン!いくら兵士を増やそうが、城門を破る事など不可能だ!」

「おい、アレじゃないか?」


 兵士の1人が外を指差す。

 薄っすらとではあるが、そこには確かに軍が移動する時特有の砂煙が上がっていた。


「こちらも確認したと支部に伝えろ、戻れ」

「隊長!アレ!!」


 外を見ていた兵士が慌てて部隊長を呼ぶ。


「敵が増えようと関係ない」

「そうではありません!アレは王国軍の旗です!」

「王国軍?」


 言われて部隊長も外を見る。

 目に入ったのは確かに王国軍の旗だった。

 中には中央軍を示す旗もある。

 つまり、中央司令部が兵を寄越したという事だ。


「ガハハ!これは勝ったぞ!城門前の敵共は中央軍が殲滅してくれる!」

「やりましたね!隊長!」

「我々はここで高みの見物といこうではないか、諸君」


 下品に笑う部隊長。

 しかし、その思惑は大きく外れる事になる。

 中央軍と城門前の賊徒は、どんなに接近しようが一向に戦闘に入る様子がないのだ。


「なんだ?中央軍はあの賊共が見えていないのか?」

「そんな筈は……。既に交戦が始まってもおかしくないのでは……」


 しかし、中央軍は賊徒の真横を素通りしている。

 馬に乗った1人の中央軍兵士が、城門を見上げた。


「何をしている!」

「衛兵に告ぐ。直ちに門を開けよ。これは上将軍命令である」

「何を言っている!敵が目の前にいるんだぞ!」

「上将軍?嘘を吐くな!」

「命令書はここにある。命令違反か?」

「捏造に決まっている!敵が目の前にいると言うのに、門を開けろだのと!」

「敵?敵とは何の事だ?」

「そこら中にいるだろう!」

「彼らは我が王国の臣民だ。先に言っておく。我々が来たのは他でもない、西方司令部が王国に仇成す行為を繰り返しているとの報告が多数届いている。その為の調査だ。貴様等にはこの調査に協力する義務があり、抵抗するのであれば反逆者としてこの場で斬り捨てる」

「はぁ!?」


 賊徒ではなく臣民だと言った。

 フェイが狙っていたのはこれだ。

 これで、西と見られる事になるのだ。

 国を憂いた臣民の蜂起。

 中央軍が吠達に協力しても何も問題ない口実が出来たのだ。

 部隊長は流石に焦り始めた。


「おい!あいつが持ってる命令書をすぐに確認しろ!」

「はっ!」


 1人の兵士が走り、命令書を受け取る。

 目を通していた兵士が腰を抜かし、その場で尻餅をついた。


「たっ隊長!本物です!!すぐに門を開けて下さい!!」

「なにぃ!?」


 部隊長は走ってその命令書を部下から奪った。

 それは紛れもなく、上将軍が出した命令書だ。


「そんな……」

「分かったらすぐに開けろ。以降、我々の邪魔をする者は即刻斬り捨てる。良いな」


 部隊長が呆然とする中、城門はゆっくりと開く。

 それと同時に中央軍はおろか、賊徒達も一緒に門を潜り始めた。


「邪魔だ!どけ!」


 道の真ん中で立ち竦んでいた部隊長は中央軍兵士に首根っこを掴まれ、端へと投げ飛ばされたのだった。



「なかなか様になってるじゃないか、サリィン?」


 城門を防衛していた部隊長を脅し、門を開けさせたのは他でもないサリィンだった。


「仕事ですので」


 サリィンの返事は素っ気ないものだった。


「なんだ?怒っているのか?」

「ええ、怒っています。自分勝手な貴方にも、何も出来ない私自身にも。貴方は何をしているんですか」

「何と言われてもな……。端的に言えば戦争だ」

「そんな事は分かっています。今回は上将軍閣下の計らいで城門は開きましたが、そうでなかったらどうするつもりだったんですか!何人の手勢を無為に散らせたと思っているんですか!」

西がなければ、中央軍の介入に大義名分がなくなる可能性がある。無為ではない、必要な犠牲だ」

「……」


 サリィンは不服そうだが、それもまた事実。

 まぁ、確かに想定よりも門前での犠牲は多くなってしまったが、中央軍が直接介入してくれたお陰で他は楽に進むだろう。

 最終的な被害はどれだけ抑えられるかが問題だ。

 それにしても、俺はサリィンに嫌われつつあるのかもしれない。


「しかし、お陰で助かった、感謝する」

「……、殿

「私は吠、ただのしがないヤクザだよ。では、私は先を急ぐ。行くぞ、時間が無いぞ豹」

「御意に」


 サリィンはそのまま置き去りにする形で、俺を先頭に選抜した精鋭100が先行して実験施設へ向かった。

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