第38話 最終段階

「何かあったか?」


 俺が本部に顔を出すと、豹がバタバタとしていた。


フェイ様、ちょうどいい所に」

「何があった?」

「タイパンからの報告です。決行を2日繰り上げて欲しいとの事」

「2日?」


 その理由を聞かされ、確かに決行を繰り上げるべきだと俺も思った。


ファンインにも連絡しろ。パオ、蛇はどうするつもりだ?」

「決行日までに7割を西都周辺に集めます。その後は状況を見て増減を考えようかと」

「8割にしろ、ここが勝負所だ。王都との連絡役は多く残しとけ」

「御意に」

「タイパンが潜入したままなら、現場指揮はシロに任せろ」

「そのつもりです。情報は全て私か吠様の元に集まるようにしておきます」

「それでいい」

「御当主、ただいま戻りました」


 話をしていると、ブンガルスが部屋に入ってきた。


「戻ったか」

「はい。ルインの新たな諜報部隊と1戦交えて来ました」

「なに?」

致死軍ジースージュンと名乗る屍喰鬼グールの諜報部隊は既に広く展開している模様、実力も中々です」

「それでブンガルス、仕留めたのか?」

「いいえ、吠様。もう少しの所で逃げられました」

「……、消耗させない為か」

「恐らく。既にルインの手駒は屍喰鬼のみ。下手に消費したくないのでしょう」

「致死軍か……」


 ルインが部下の消耗を恐れている。

 蛇にとっては非常に有難い状況と言えよう。

 情報戦での蛇の優位アドバンテージは継続する事になる。

 しかし、何故ここに来て消耗を恐れる?


「引っ掛かるな……」

「何がです?主殿」

「ここでルインが出し惜しみする意味が分からん」

「我々との戦いの後を考えているのではないでしょうか?ここで諜報部隊を消耗させても、その後は王国軍との戦争です。少しでも力を温存させたいのでは?」


 端的に考えればそうかもしれない。

 しかし、あのルインがそんな事を考えるとも思えない。

 何より王国軍、と言うよりも上将軍が抱えている諜報部隊の実力など、蛇はおろか致死軍の足元にも及ばない。

 考慮に入れる事案ですらないのだ。

 俺達を倒しさえすれば、王国軍を潰すなど楽な筈である。

 様子見をしたいところだが、決行日が決まった今となっては無理な話。


「……、致死軍の動向には注意しておけ。今は次の戦闘に集中しろ」

「御意に」


 ルインが秘策を持っているとも考えづらい。

 だとすれば……。

 予測は出来るが確信が持てない、まだ豹に伝えるには早過ぎる。

 早急な判断は避けた方がいい。

 まずは次の戦闘だ。


「今度こそ、命を弄ぶあの研究者2人を地獄へ送ってやる……」


 俺は刀の鯉口を握り締めた。



「実験は最終段階に入れます」


 ルーヴがボスに説明していた。

 人工魔術師ストライゴンにも正直飽きてきた所だ。

 今までに50人近くの製造に成功した。

 既に全員が前線配備されている。

 だが、本当の目的は魔術師を造り出す事ではない。

 このボスに、魔王の能力を定着させるのが最終目的ゴールだ。

 とは言っても、魔王の能力と言うモノが何なのか、僕にはよく分からない。

 強大な魔力や軍を統べる統率力なのか。

 しかし、ならば、この様な実験ではなく、自力で手に入れる事も出来る気がする。

 まぁ、その辺りは僕には全く分からない。

 やれと言われ、それが面白そうだったからやっているだけだ。

 実際、この研究は楽しかった。

 もっと真理についての研究をやりたい。

 真理を使える事が分かったお陰で、もっと色々な事に使えるんじゃないだろうか。

 技術の進歩は飛躍する。

 それは確信できる。


「スペリオ?」


 ルーヴが僕を呼んでいた。


「別の事考えてたでしょ?」

「うん、ごめんごめん」

「それはいいとして、私への施術はいつの予定だ?」

「7日後を予定しています。よろしかったですか?」

「うむ、構わん」


 そうして、細かい打ち合わせをしていた時だ。

 突然、地面が大きく揺れた。


「なんだ!?」

「敵襲と考えるのが妥当だろうな。最終実験は中止。スペリオとルーヴはそのまま待機。部下を護衛に付ける」

「逃げなくていいのですか?」

「この街は強固な城門に守られている。そう簡単には落ちん」


 そう言って、ボスは部屋から出て行った。

 残されたのは致死軍の屍喰鬼2人。

 何とも居心地が悪い。


「蒼狼様!」


 狗狼人ウェアウルフの男が走ってきた。


「敵襲か」

「その通りでさ!」

「街に入れていた魔王軍残存部隊に、この建物を防衛させろ。外の防衛はお前達で固めろ。残存部隊を人目に触れさせるな。残りで城門を固める。西方司令部に連絡し、投石機アクセラレータを軌道させるのも忘れるな」

「使えるんですか、あれ」

「お前1人よりも明らかに使えるぞ」


 そう言ってボスは笑った。

 この襲撃は予想通りだった様だ。

 既に勝利を見据えている。

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