第34話 連携と協力
「
蛇の1人が俺を呼びに来た。
ちょうど、今後の主な動きの確認が終わった所だった。
「来客?誰だ?」
「それが、フィロー商会のピュートと名乗るお方で」
「ピュート?」
久々に聞く名だった。
確か、今は西方への販路拡大の為に、西部を飛び回っている筈だ。
俺に用とは何かあったのか?
頭を傾げながらエントランスへ向かうと、満面の笑みのピュートがそこに立っていた。
「ガル殿!」
ピュートは俺に跳び付いてくる。
傍から見たら、懐いている親戚の子供が遊びに来たようだ。
「ピュート!元気だったか?」
ピュートの頭をワシワシと撫でる。
「ガル殿こそ!活躍はかねがね聞いております!」
「ハハハ、そう言うのを悪名って言うんだよ」
「あ、申し訳ございません、吠殿とお呼びした方がよろしかったですね」
「ん、まぁあそうだな。ここではそう呼んでくれ。ところで、何かあったのか?お前の方から訪ねてくるなんて」
「心ばかりの陣中見舞いですよ」
ニッコリと笑いながら、ピュートは俺に羊皮紙を数枚渡してくる。
「なんだこれは?」
「陣中見舞いだと言ったでしょ?」
「これ、全部医療用品じゃない!?」
俺の背後から盗み見たエルウィンが声を上げる。
「これはこれは、エルウィンもご息災のようで!」
「久しぶりね、ピュート。でも、これは何?」
「私からのお土産です!上将軍閣下には、先5年の税金の免除を約束して頂きました。その分には遠く及びませんが、吠殿の陣営に必要かと思うモノを見繕って来ました!」
「これを、貰っていいのか……?」
「勿論です!見返りは、
「ガハハ!面白い商人ですな、主殿!」
タイパンやシロ、
「これはこれは!次期重役の皆さま、フィロー商会のピュートと申します。お見知り置きを」
「しかし、こんなに貰っていいのか?」
「いいんですよ!
そう言ってニヤリと笑いながら、瓶入りの水薬を取り出すピュート。
「まさか!」
それを受け取り、ラベルを確認する。
『
「ゴールグの村か!」
「はい!今では薬草畑の状態もよく、かなりの量を作れるまでに大きくなりましたよ!そのお礼だそうです」
「ハハハ!そうかそうか!それは良かった!」
「ピュート殿、大変助かります。我が陣営は蒼狼と敵対しているため、物資の調達に懸念が残っていました。よろしければ、今後ともお取引を……」
シロがピュートへ提案する。
これを見越して俺を訪ねてきたな、この
全く、抜け目のない奴だ。
「勿論です!こちらとしても大口の顧客を得られるのは大変助かります!」
「ピュート、相変わらずチャッカリしてるな」
「吠殿に言われたくありませんよ。それより、お話したい事が」
ピュートの声色が急に真剣なものになった。
なる程、単に俺達を顧客にする為に来た訳ではなさそうだ。
「分かった、全員会議室に戻れ。話はそこで聞く」
†
「皆様を取り巻く状況は上将軍閣下から大まかに聞かされています」
俺と黄、
「フィロー商会で追えるのは物流と人流のみです。先日、皆様が襲撃した地下施設の場所は、我々では特定出来ませんでした。街や村から離れた場所だと、どうしても特定出来ないのです」
「ピュートも探りを入れていたのか」
「上将軍閣下のご命令で。しかし、突き止める前に、皆様が壊滅させました。骨折り損のくたびれ儲けという奴ですね。ただ」
「ただ?」
ピュートはニヤリと笑う。
「街や村の物流、人流は追う事が出来る」
そう言って、羊皮紙を俺達に配った。
それは西部の地図。
3つの街に赤い丸が付けられていた。
「これは?」
「蒼狼の新たな研究施設があると思われる街です」
「何!?」
全員が目を見開いた。
現在蛇が全力で探している情報が、ピュートからもたらされたのだ。
「とは言っても、目星です。現在、蒼狼は自分の支配下にある街に兵士を異動させています。恐らく、先日の襲撃を受け、防衛体制を整えているのでしょう。どの街でも物流量が増えています」
「ならば、逆に特定出来ないのでは?」
「それが出来てしまうんですよー」
ピュートは得意気にニヤニヤと笑う。
「まず、街の規模と防衛要員として動員する兵士の数は比例する筈です」
「それは、確かにそうだな」
「人が増えれば消費する食べ物も増える」
「まぁ、当たり前だな」
「ならば、増えた食料の量から、増員された兵士の数の大方の数字が割り出せます。それをもとにして、街の規模と明らかに異なる食料を消費している街を絞り込みました」
なる程。
研究施設がある街ならば、街の防衛用の兵士と、研究施設の防衛用の兵士、両方を宛がう必要がある。
そうなれば、街の規模よりも明らかに多くの食料を消費しているところが怪しい。
物流を担うフィロー商会なりの調べ方が、侮れない。
「タイパン!すぐにこの3つの街を徹底的に洗え!」
「言われずとも、御当主!5日……、いや、2日で特定する!」
タイパンはすぐさま会議室を飛び出した。
「御当主、我々がこの情報を手に入れた事を悟られないよう、欺瞞工作を行う許可を」
「勿論だ、決して気取られるな!」
「承知」
そう言って、シロも会議室を後にする。
「ピュートとやら、お手柄だ。礼をしたいのだが……」
「いえいえ、その様なものは不要です、黄殿。先程も申しました通り、見返りは蒼狼の打倒でお釣りが出ますよ。それに、私の事をお見知り置き頂いた事で何よりです」
そこで1つ、俺には気になる事があった。
「ピュート、この情報は俺達の為に調べ上げたものではないな?」
俺の言葉にピュートは一瞬、ビクリと身体を強張らせた。
その姿を見て、思わず俺は笑ってしまう。
「ピュートは分かりやすいな」
「……、やはり吠殿には敵いません……。吠殿の言う通り、これは上将軍閣下のご命令で調査した内容です」
「つまり、中央司令部は既にこの情報を持っていると。俺達に流したのは上将軍の案か」
「はい、その通りです。閣下も諜報部隊はお持ちですが、数も質も蛇の足元にも及びません。3つに絞れたところで、1つには絞れない」
「それで、その情報を俺達と共有する事で、蛇に特定させようって魂胆か。閣下らしいな」
「なので、墓所が絞れたならば私に教えて頂けませんでしょうか?」
「それは構わん。だろ?黄」
「ああ、いざとなったら閣下のお力もお借りしたいと伝えてもらえると、こちらも助かる」
「中央司令部は、西部への介入を念頭に既に動いています。ここは足並みを揃える必要があるかと」
「うむ。蒼狼側に魔王軍残存部隊が入った事も閣下はご存じだろう」
「その事は既に私の方からお伝えしております」
「ピュート、中央司令部と連携するのはやぶさかでないが、日取りに関してはこちらに一任して欲しい。軍の動きと合わせると、タイミングを逃す可能性が高い」
「承知しております。それも含めて、閣下にはお伝えしておきます」
「加勢出来ないなら出来ないでもいい。ただ、西方司令部に釘を刺すくらいはしてもらわないとな」
「でも、これでかなり流れが変わったんじゃない?」
エルウィンがお茶を飲みながら言う。
確かにそうだ、蒼狼側は兵士の移動でまだ落ち着いていない筈。
殴るには絶好の機会かもしれない。
『善は急げ』と言うのは、今の状況なのかもしれないと、俺は密かに思っていた。
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