西部内乱篇

第33話 真なる血盟

 ファンは訓練所で鍛えていた兵士達を、幾つかの街に振り分けた。

 既に蒼狼ツァンラン側には、こちらが兵力を増強させ、戦闘を辞さない構えである事は伝わっている。

 隠す必要もないが、だからと言って1ヶ所に固めておくわけにもいない。

 数が多くなれば多くなる程、混乱した場合の被害は大きくなる。

 その様な事が起きないように蛇が色々と手を回してくれていたが、そろそろ自分達で防衛してもらわなくては困る。

 兵士の振り分けについては黄やインパオ、だけでなく、シロやタイパンも意見も聞いた上で決めた。

 俺達が本部として使用している事務所を構える街に多くの兵士を集め、その他の主要拠点へも振り分ける。

 訓練は各地域でやる事になった。


「しかし主殿、新たな刀の入手、おめでとうございます」

「何とかな。そうだ、ソハヤと一緒に他の武器も手に入れたんだ。持ってきてくれ」


 豹が頷き、扉を開ける。

 それぞれ木箱を持った5人が部屋に入ってきた。


「まずは黄。ゲンシンのじいさんからの最後の土産だ」


 黄が木箱の中から大刀ダイトウを取り出す。


「これは!?」


 黄は目を見開きながら、大刀を鞘か抜く。

 分厚く大振りでありながら、刃は繊細に研がれた、赤く輝く刀身が姿を現す。


「スゲー、高純度の緋緋色金オリハルコンだぜ」

フェイ、これは私宛に造られた様だな……」

「あぁ、木箱には黄の名前が入ってた。お前の手癖を知り尽くしたゲンシンが、お前の為に鍛えた大刀だ。手に馴染まない筈がない」

「うむ……」

「コッチは寅、お前にだ」


 寅に渡したのは直槍スピア

 寅は黄に次いで優れた大刀使いだが、槍関係は分け隔てなく使える長柄武器ポールウェポンの猛者だ。

 恐らく、この直槍も使いこなせるだろう。


「ありがとうございます!」

「直槍にしてはデカい。お前にはちょうどいいだろう。こっちはタイパン、お前に」

「俺も頂いていいんですかい!?」

「お前もその内、前線に出るだろ。その時に使え」


 渡したの両手剣ツーハンデッドソード

 元々、片手半剣バスタードソードを片手で振り回してるタイパンには、ちょうどいいのではないだろうか。


「コイツはデカいな!」

「両手剣だからな」

「しかし、本当に軽い。これなら馬上でも片手で振り回せそうだ」

「気に入ったか?」

「あぁ、感謝するぜ主殿!」

「これは豹、お前に」


 そう言って、1対の短剣ショートソードを豹に渡す。


「これは……」

「それはお前の名前が入っていた。両刃の短剣と刀の様な短剣でバランスが悪そうだが、どうだ?」

「……、むしろ妙にバランスがいいです」

「ハハハ、ゲンシンの爺さんは天才だな。んで、こっちはシロに」

「私にもですか?」


 手渡したのは長剣ロングソード


「シロは魔法も使えるだろ?」

「残滓が残るので任務では使いませんが……」

「いざと言う時には使え。ソイツは柄の装飾が神霊銀ミスリルで出来てる。お前との相性が良さそうだ」

「ありがとうございます」


 例の鍛冶場で見つけた武器はこれで全てだ。

 と、背後に視線を感じる。


「吠、私には?」


 エルウィンが恨めしそうな目で俺を見ていた。

 武器はもうない。

 だが、武器以外で見付けたモノが1つあった。


「エルウィンにはこれだ」


 そう言って、エルウィンの首に首飾りアミュレットをかけてやる。


「首飾り?」

「それも神霊銀製だ。所有者の魔力を増幅させる効果と、対魔力防御を上げる効果があるらしい」

「弓はなかったもんね、まぁいいわ。許してあげる」

「何で上からなんだよ……」

「それはそうと、これだけ大規模に兵士を異動させて大丈夫なの?」

「問題はありません、あねさん。向こうも既に動いてる」

「西都を中心に、いくつかの街を兵士で固め始めてる」

「ちょっと待って、西方司令部は見て見ぬ振りなの!?」

「蒼狼とズブズブだからな、分かり切った事だ」

「じゃあ、西方司令部が私達へチョッカイを出してくる可能性は?」

「それも心配ない。兵士を配置した街の支部の連中は、全部中央司令部の奴等に成り代わってる」

「……、え?」

「上将軍閣下に手配して頂きました。元々配置されていた西方司令部の兵士は、秘密裏に中央本部へ収監されています」

「なかなか大胆な事したわね、豹」

「背に腹は代えられませんので。使えるモノは全て使おうと」

「誰かに似てきたな、豹」

「誰かって誰だよ?」

「主殿以外におらんでしょう?」


 そう言って笑う一同。

 悪くない雰囲気だ。

 変に気負ってもおらず、だからと言って気が抜けている訳でもない。


「さて、レクレーションはこれくらいにして、本題に入るぞ」


 黄のその一言でピリッとした空気に変わる。

 信頼できる仲間と言うのは、こういう事を言うのだろう。

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