第32話 亡者からの恵与

「着いた……」


 そこは少しだけ拓けた場所だった。

 そこにあるのは小さな小屋だけ。

 鍛冶に必要なモノだけが揃えられ、他には何もない。

 そう、生活に必要なモノが一切ないのだ。

 こんな所に籠っていたら、1週間と待たずに死んでしまう。


「本当にここなのか……?」

「とりあえず、小屋を見てみよう」


 そう言って、カースが小屋に近付く。


「ちょっと待って」


 俺もカースに続いて歩き出したが、それをエルウィンが遮った。


「どうした?」

「魔術の気配……」

「魔術!?」

「えぇ、フェイにも見える筈よ。


 言われて、小屋の方を凝視する。

 確かに、何か煙の様なものが微かに見える気がする。


「アンタ等、魔術が使えるのか!?」

「おっとカース、この事は他言無用で頼む。俺達も面倒事は遠慮したいんでね」

「それは分かるが……、まさかエルウィン、アンタは古代耳長人エルフなのか……?」

「えぇ、私は古代耳長人よ?それより、人間ヒュームである吠が魔術を使えるって方に驚くべきだと思うけど?」

「マジか……」

「それは今は置いておけ。問題は、小屋の魔術だ」

「考えられるのは、小屋の防衛用に設置された、攻勢魔術ね」

「なんか投げてみるか」


 そう言って、俺は足元に落ちていた枯れ枝を拾い、小屋に投げた。

 枝はそのまま小屋の扉に当たって地面に落ちる。


「何もなさそうだが……?」

「生体にだけ反応するタイプかも」

「そんなんもあるのか?」


 とは言っても、それでは確かめようがない。


「もういいエルウィン、俺に対魔術防御を掛けろ。少しでも威力を軽減できるだろう」

「ちょっと吠!」

「時間が惜しい」


 俺はズカズカと歩き、ドアの前に立った。

 エルウィンが俺に魔術を掛ける。

 俺は小屋の扉を開けた。


「……」


 何も起きない。

 拍子抜けした所で、俺は小屋の奥の壁に魔素オドの残滓を見付けた。

 なる程、これは攻勢魔術ではない。

 光学的阻害と物理障壁。

 つまり、その壁の億には、隠したい部屋があるという事だ。


「2人とも、入ってきていいぞ。目標発見だ」

「何?何もなかったの?」

「隠し部屋だ。魔素はそこの奴だ」

「なる程……」


 俺は壁の魔術を解除する。

 すると、そこには広い空間があった。

 外にあったモノの3倍くらいはある大きな鍛冶場だ。

 離れた所には生活スペースもある。


「なる程、隠れ家だな……」

「こんなデカい鍛冶場、初めて見た……」

「凄い……、魔術や魔法の痕跡もあるわ。魔力を使いながら鍛冶をしてたって事じゃない?」


 俺達は思い思いにその広い空間を見て回った。

 窓は少ないが、風の通りは良い。

 素材さえあれば、すぐにでも稼働できる状態だ。


「おい!見てくれ!」


 カースが俺とエルウィンを呼ぶ。


「何、これ?」


 そこには、大きめの木箱がいくつも保管されていた。

 俺は近付いて、その箱をよく見る。

 埃を払うと、それぞれに違う文字が焼き印で入れられていた。


「この文字……」


 俺には見覚えがあった。

 ゲンシンが使っていた、ゲンシンの元の世界の文字だ。

 そして、この文字は……。


ファンに宛てた木箱だ」


 その木箱は一際は大きく、長さは3メートル程ある。

 俺はその箱の大きさから予測が付いた。


大刀ダイトウだ……」


 近くに落ちていた器具で、木箱の蓋を開ける。

 中は大鋸屑おがくずで満たされていたが、その大鋸屑の奥が何やら赤く光っているように見える。

 俺は鳥肌が立った。

 取り出さなくても分かってしまう。


「これは……、緋緋色金オリハルコン製の大刀だ……」

「緋緋色金製!?」

「恐らく、ほぼ純正の緋緋色金だ」

「待ってくれ!ゲンシンさんは時空放浪者ベイグラントの人間だろ!?緋緋色金の加工なんて技術、もっていない筈だ!」

「身に着けたんだよ、あのじいさんは。鉱矮人ドワーフ以外でそれを可能にした初めての人間だ……」


 俺は大鋸屑の中から大刀を取り出した。

 刀身は鞘に収まってはいるが、その大きさは初めて見る大きさだ。

 その癖、大きさ程の重さがない。

 馬鹿デカい大刀の癖に、並みの大刀と変わらないくらいの重さだ。


「あったんだ、ゲンシンの遺作……」

「もしかして、これ全部……」

「開けようぜ、吠さん!」


 カースが木箱を開けていく。

 中にはどれも、緋緋色金製の武器が入れられていた。

 直槍スピア両手剣ツーハンデッドソード長剣ロングソード短剣ショートソード

 俺の眼から見ても、どれも一級品だ。


「吠さん!これ!」


 カースが俺を呼んだ。

 一つの木箱を指差している。


「この大きさ、恐らく……」


 俺は近付いて、木箱の焼き印を確認する。

 吠という俺の名前が入っていた。

 蓋をこじ開ける。

 一振りの刀が顔を出した。

 抜刀する。

 赤く輝く刀身が拾い空間を照らし出す。


「ソハヤだ……。間違いない、この作りはソハヤと同じだ」

「見せてもらっていいか?」


 刀をカースに渡す。

 カースは刀の隅々まで舐めるように見た後に、作業を始めた。

 手早く柄から刀身を取り出し、なかごを見る。


「確かに、吠さんのソハヤと同じ文字が入ってる。刀身の状態もいい。手入れの必要もなかったみたいだな。しかし、これは何と書いてあるんだ……?」


 カースは俺に茎に刻まれた文字を見せる。

 そこには、ソハヤと同じ文字と、更に別の文字が入っていた。

 ゲンシンの入れた銘だ。

 読めないが、意味は分かる。


「真打……」

「シンウチ……?」

「一番出来が良かった1振って意味だが、この場合は、『これが真のソハヤである』という意味だろう。完成していたんだ……」

「ソハヤ・真打……」

「感動している所悪いんだけど、人の気配が近付いてる」

「蛇か?」

「違う。暗黒種族みたい」

「ここの隠蔽工作出来るか?エルウィン」

「隠す事ならお安い御用。の設定もしておくわ」

「他の武器は後日回収させる。黄の所に戻るぞ」

「なぁ、吠さん」

「どうした、カース?」

「武器の製造の事なんだが、ここでやってもいいか?こんな大層な武器は作れないが、ここなら俺の腕も鍛えられそうな気がする」

「分かった。武器回収の際にもう一度登ってくればいい。気の合いそうな鍛冶職人も連れてくると良い。必要な資材などは寅の部下に運ばせる」

「助かる」

「今はとりあえず帰還だ。恐らく、近付いている暗黒種族は蒼狼ツァンラン側の奴等だ。ここでの戦闘は避けた」


 そうして、俺達は山を下りた。

 新たなソハヤを腰に佩き、俺はなんとも言えない安心感を感じていた。





『 遺作捜索』————Quest Accomplished

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