第30話 山の中
「
シロが改まって言った。
大隊の予想はつく。
「本日の明朝をもって、隠をほぼ壊滅させました」
「ご苦労。予定よりも早いが、まぁ問題はない。黄様、次の段階へ進めます」
「分かった」
黄様が頷くと、シロも頷き、その場を後にした。
「ところで、訓練所へ襲撃があったと聞いたが、被害の状況は?」
「極めて軽微です。死者は34人、重傷者67人、軽傷多数。戦線離脱者は21人。襲撃の目的は指揮官クラスの暗殺だったようですが、誰も
「襲撃は失敗だったと」
「ただ、これが本気の襲撃には思えないのです」
「どういう事だ?」
シロなど、現場に居合わせた蛇は口をそろえて言っていたし、私自身もそう思う。
「今回の襲撃で、暗殺を担当した者達は全員が
「屍喰鬼だと?」
「恐らく、初期ロットから引き抜きで鍛えられた隠の後釜かと」
「間違いなく屍喰鬼だったんだな?」
「はい。どの屍喰鬼も、軽い戦闘の後、すぐに逃亡しています。1匹も仕留められませんでした。恐らく、逃亡が大前提の試運転かと……」
「つまり……」
「屍喰鬼の隠が、本格的に動き出したと考えられます」
黄様は溜息を吐きながら頭を抱えた。
「蛇が勝てる見込みは?」
「まだ分かりませんが、ほぼ互角と見た方が良いかと。急造の部隊とは言え、屍喰鬼となると警戒せざるを得ません。今、タイパンに探らせています」
「諜報での
「黄様、地下施設の襲撃以降、既に戦争状態です。我々が敵対する意思を明確に示した時点で、諜報での我々の優位は小さくなりました。今更互角になっても、状況はあまり変わりません」
「まぁ、初めから
「初めから我々が狙っているのは、一点突破の短期決着の筈。あまりお悩みにならないで下さい」
「今は
「はい。我々がやるべきことは、『決行日までに出来得る限りを尽くす』事です」
「そうだな……」
黄様の顔色が少し良くなった。
重要な事は変わらないのだ、ただそれを実行するだけの力、今の我々の陣営にはある。
むしろ好転していると考える事も出来る。
「そうだ、
「ゲンシン殿の弟子であったドッズ氏の弟とお会いになられています」
「新たな刀は手に入りそうか?」
「そこまでは……。ですが、ゲンシン殿が使っていた鍛冶場の位置を特定しました。今はドッズ氏の弟とそちらへ向かわれています」
「吠には、刀が見付かろうがそうでなかろうが、戻って来てもらわねばな。蛇も兵士も、いつでも動けるようにしておけ」
「御意に」
黄様は、決着の日が近いとお思いなのだろう。
それは確かだ。
蛇も屍喰鬼に入れ替わった。
長引けはこちらが不利なのは分かり切っている。
タイパンに探りを入れさせている新たな研究施設の場所の特定。
これが叶えば、全てが始まる。
そう私は予想している。
†
「ここか……」
俺はとある山を見上げていた。
ここは西部でも北の方、そんなに高い山ではないが、木々が鬱蒼と茂っている。
ゲンシンの鍛冶場はこの山の中腹辺りにあるらしい。
場所の特定にはそんなに時間が掛からなかった。
豹が全力で調べ上げてくれたようだ。
「早速登るか」
「じゃあ、私に付いて来て」
そう言ってエルウィンが先頭に立った。
「森の案内は
「確かに。地図はエルウィンに渡しておこう。カース、アンタは2番目に。俺が最後尾を行く」
「分かった」
「にしても、結構な大荷物だな、カース」
カースは大きめの鞄を背負っていた。
見るからに重そうである。
「あぁ、一応、武器があった時の事考えてな。ゲンシン殿や兄者がいなくなって、既に数年が過ぎてる。刀の状態が悪かったらその場で手入れをしてやる」
「そいつは助かる」
「じゃあ、出発ね」
鍛冶場までのハイキングが始まった。
この山は動物は多いが、
また、人里からも離れているため、蒼狼側に気取られる心配もないとの事だった。
しかし、とりあえず警戒はしておく事にする。
この鍛冶場に刀がなければ、素直に諦めるしかない。
最後の望みをかけ、俺は大きな鞄について行った。
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